約 1,060,658 件
https://w.atwiki.jp/niconicomugen/pages/7776.html
分類:バーチャルポケモン タイプ:ノーマル 高さ:0.9m 重さ:34.0kg 特性 特性:てきおうりょく(タイプ一致による威力の補正が1.5倍から2倍になる) ダウンロード(相手の防御と特防を比較し、防御が高ければ特攻が、 特防が高ければ攻撃が1段階上がる) 夢特性:アナライズ(後攻で繰り出す技の威力が1.3倍になる) 「より すぐれた ポケモンに するため プログラムを ついかしたが なぜか おかしな こうどうを はじめた。」 任天堂,の育成RPG『ポケットモンスター』シリーズに登場するポケモンの一体で、初登場は第4世代(『ダイヤモンド・パール』)。 「ポリゴンゼット」と発音する。タンクではない。 人工ポケモン「ポリゴン」の最終進化系であり、ポリゴン2に「あやしいパッチ」を持って通信交換すると進化する。 異次元空間でも活動できるようにプログラムを修正された存在だが、バグがあったらしく、おかしな行動をするようになったらしい。 要するに失敗作。ポリゴンからしてみれば迷惑もいいところだが、元々自我を持たなかった人工生命のポケモンであり、 バグにより結果として「従順」以外の行動もとれるようになった為、より生物らしく進化したとも言えよう。 その姿はポリゴン2の首をもぎ取り上下反転させた奇怪な姿となっており、ポリゴン2があやしいパッチのせいでバグった姿とも言える。 ちなみにポリゴンからポリゴン2への進化にも「アップグレード」を持たせた通信交換が必要。 進化条件が2段階とも道具付きの通信という珍しい系統である。 また、名前に標準で数字やアルファベットが入っているのもこの系統が唯一であり、人工ポケモンの特殊性を表現していると言える。 原作中の性能 HP:85 攻撃:80 防御:70 特攻:135 特防:75 素早さ:90 合計:535 ノーマルタイプ最強の特攻を持つ特殊アタッカー。高い特攻に加えて素早さもそこそこ高いが、耐久は並み。 それどころか進化前のポリゴン2から防御と特防の種族値が20低下している。HPも上昇してないので相対的に脆くなった。 メインウェポンである「トライアタック」、「さわぐ」をはじめとして、 「あくのはどう」、「れいとうビーム」、「10万ボルト」などサブウェポンも豊富。 さらに、「わるだくみ」や「マジックコート」など、補助技も優秀。 そして特筆すべきは、ただでさえ高い火力を高める3つの特性。 これらの特性の補整を受けた「はかいこうせん」は、並の耐久力の相手なら半減だろうが問答無用で倒せる威力を持つ。 このノーマルタイプの特殊アタッカーという点が、実は非常に重要である。 というのも、ノーマル単タイプの強豪アタッカーはガルーラやチラチーノなど物理中心が多く、 他の特殊アタッカーは複合タイプを考慮しても、バクオングやトゲキッスなどごく少数であった。 加えて物理ノーマルのメインウェポンとなる「おんがえし」や「からげんき」は技マシンで習得できるのに対し、 ノーマルの特殊技で強力な「トライアタック」や「ハイパーボイス」は、現在の環境では技マシンには存在せず、 (技教えにハイパーボイスがあるなど全く手が無いわけではないが、時期によっては手間がかかる) 習得可能な「はかいこうせん」は反動で動けなくなるデメリットがあるため、必然的に特攻に特化したアタッカーは、 ノーマルタイプ全体の中では非常に限られていた。 第5世代では、キノガッサやローブシンなどのメジャーな格闘タイプが猛威を奮っており、耐久力の低いZは苦戦を強いられた。 更にしんかのきせきという最終進化前のポケモンの防御と特防を1.5倍にするアイテムの影響でポリゴン2が圧倒的な耐久力を得る。 ポリゴン2の状態でもそこそこ高い特攻とそれを強化する上述の特性のお陰で火力は決して低くないと、進化前に完全にお株を奪われていた。 だが、続く第6世代で登場した問題児のファイアローの台頭により、それまでやりたい放題だった格闘タイプ達がお通夜状態になったことで、 カビゴンなどの他のノーマル勢と一緒に復権した。 また、ピクシーやトゲキッスなどそれまでノーマル特殊アタッカーだった連中がフェアリータイプに鞍替えした部分も大きい。 ただし、カエンジシやエレザードなどの複合タイプの特殊アタッカーのライバルも増えた。 第7世代では、新システム「Z技」のおかげで大幅な強化を受けた。 「はかいこうせん」をZ技化した「ウルトラダッシュアタック」は、てきおうりょく込みなら威力400という桁違いな火力を生みだすが、 何より、1回だけだが普通の「はかいこうせん」の反動を受けないのが最大のメリット。 また、ポリゴン系のみが使える「テクスチャー」をZ技した場合、全能力値1段階上昇の強力な積み技へと変化する。 これに加えて、フェアリータイプの台頭で第6世代以上に格闘の肩身が狭くなったことで、活躍の場が増している。 本編作品以外では『ポケパークWii』で登場。担当声優は 三木眞一郎 氏。 + ポリゴン一族を語る上で外せないこと そんなポリゴンZだが未だにアニメ本編には登場していない。 全ての原因というのはあの「でんのうせんしポリゴン」という日本アニメ史に残る大事件が切っ掛けである。 その話中に放たれた赤と青のパカパカが全国の子供たちに体調不良をもたらし、 その模様が全国区のニュース番組でトップニュースとして報道。それが原因で任天堂とテレ東は大きな批判を受けることになってしまった。 そもそもの切っ掛けとなったのは、ワクチンプログラムとして放たれたミサイルを、 ピカチュウが電撃で迎撃した際の発光が原因であり、決してポリゴンがパカパカフラッシュを発した訳ではないのである。 無論、ピカチュウが電撃を放ったからと言われてるが、人気ナンバーワンポケモンにそんな罪を着せられる訳もなく、 むしろワクチンミサイルを発射するよう指示したジョーイさんやそもそもパカパカフラッシュを使ったスタッフが悪いんじゃね?とは言ってはいけない。 いつの間にかポリゴンの存在はアニメから消えていくこととなった。 ゲーム本編では進化形態が追加され優遇されていると言えなくもないが、 事件の記憶と結びつくせいか、2やZもアニメ本編に出ることが出来ないままである。 「どうせアニメに出られないなら何故出した?」という声さえあるとかないとか (一応2に関しては劇場版に一瞬だけ登場している。Zは未だアニメ媒体には影も形も……)。 17年以上もアニメから出禁を喰らっているポリゴン一族。その呪いが解けるのはいつの日になるのだろうか。 ただ、ユンゲラーのように存在そのものが問題を抱えている訳ではないため、 漫画作品やカードゲーム、シール等のグッズには無事登場している。 取り敢えず、ポリゴンにこの件に関して落ち度が無いのは確定的であり、 これを読んでいる貴方にはどこかの動画でパカパカフラッシュ効果を見ただけで「ポリゴンフラッシュ!」とコメントしたり、 ポリゴンが登場しただけでどこぞの大佐よろしく「へぁあ、目が、目がぁ~!」とかコメントするのは、 ポリゴンの名誉に悪いのでどうか自重よろしくお願いします。ホント今でも見かけるのよその手のコメ(泣) MUGENにおけるポリゴンZ RoySquadRocks氏の製作したキャラが公開中。 「れいとうビーム」や「シャドーボール」などの光線技を得意とする遠距離向けのキャラ。 通常攻撃はリーチが短いため、これらの飛び道具を中心に戦う戦術が基本となる。 何故かゲージ技に近距離攻撃「ギガインパクト」が搭載されている。 元ゲーで特殊技主体のポリゴンZがこの技を使うのは、もっぱら特性「ダウンロード」で攻撃が上がった場合の奇襲としてだが、 このキャラの特性は「ダウンロード」という設定なのだろうか? 超必殺技はゲージ2本消費して放つ「はかいこうせん」。 また、ストライカーとしてポリゴンやポリゴン2を呼び出したり、 ライフが少ない時のみに発動できるゲージ技「じこさいせい」など、中々面白い技を持つ。 それにしても、やけに目に悪い演出が多いあたり、海外でもこういう扱いなのかと痛感せざるを得ない。 AIもデフォルトで搭載されている。 出場大会 MUGEN祭 並盛りシングルトーナメント MUGEN祭 並盛りタッグトーナメント 出演ストーリー MUGEN STORIES INFINITY
https://w.atwiki.jp/bz666/pages/132.html
The Ballads ~Love B z~ いつかのメリークリスマス ALONE 今夜月の見える丘に HOME Calling TIME 消えない虹 月光 ハピネス もう一度キスしたかった 泣いて 泣いて 泣きやんだら ONE Everlasting GOLD SNOW
https://w.atwiki.jp/motherboard/pages/19.html
基本データ メーカー MSI チップセット Z87 フォームファクタ XL-ATX[34.5cm(L) x 26.4cm(W)] メモリースロット PC3-24000 DDR3 SDRAM X4 ディスプレイ DisplayPort X1, HDMI X2 拡張スロット PCI Express3.0 x16 X5, PCI Express 2.0 x1 X2 SATA SATA 3.0 X10, mSATA(SATA3.0) X1 USB USB3.0 X12, USB2.0 X6 LAN 1000BASE-T X1(Killer E2205), IEEE802.11a/b/g/n サウンド 7.1ch(Realtek ALC1150) メーカーページ http //jp.msi.com/product/mb/Z87-XPOWER.html#overview バックパネル画像 評価 おすすめ度 ★★★☆☆ 性能的には文句ないが、贅沢すぎる仕様。XL-ATXという大きさもケースを選ぶ 基本性能 ★★★★★ 基本性能は過剰なほど充実 拡張性 ★★★★★ 拡張性も文句がないが、LANポートが1つなのでチーミングはできない コストパフォーマンス ★☆☆☆☆ コストは度外視でつめこんだ作り ゲームPC ★★★★★ サウンドやLANコントローラはゲーム向けも意識しており、4waySLIやCrossFireに対応 ビジネスPC ★★★☆☆ ビジネス向けには余計な装備が多い ホームPC ★★★★☆ ホーム向けにも高い性能を持つが、コスパが悪い 価格推移 http //kakaku.com/item/K0000516916/pricehistory/ リンク Z87 XPOWER 【レビュー】 MSIの究極のオーバークロック向けマザー「X99S XPOWER AC」 ~多機能を求める上級者から殻割りするヘビーOCerまで応える1枚 - PC Watch 完全デジタルPWM電源となった「MSI Z87 MPOWER MAX」フォトレビュー - PC Watch XL-ATXでHaswell対応、MSIの大型ゲーミングマザーが発売に - AKIBA PC Hotline! MSI、第4世代インテルCoreプロセッサー対応マザー11機種 - 価格.com MSI、「OC Genie4」対応のIntel 8シリーズマザー ~最上位のオーバークロック向けは32フェーズ電源回路搭載 - PC Watch コメント 名前
https://w.atwiki.jp/highwaybattle/pages/106.html
FAIRLADY Z VersionS スペック※ノーマル 形式:Z33 全長:4310(mm) 全幅:1815(mm) 全高:1315(mm) 車重:1440(kg) ホイールベース:2650(mm) トレッド(F):1535(mm) トレッド(R):1545(mm) 駆動形式:FR エンジン形式:V6 NA 排気量:3498cc 最高出力:280PS / 6200rpm 最大トルク:37.0kg/m / 4800rpm 価格:6,340,000CP 購入可能条件:No.120「真夜中の黒い太陽」を倒すと入荷。 解説 かつて火花を散らしたライバル達が忽然と姿を消していく中、日本スポーツカーの代名詞とも言えるこのクルマの動向が注目されていた。世界中のファンが待ちわびて「Z」の復活。それは世紀をまたぎ遂に実現する事となった。新フェアレディZ「Z33」の誕生である。 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/orirowaz/pages/440.html
終りの先に何があるのか。 ■ 都会の夜はまるで無数の星々が地上に降り立ったかのように煌びやかだ。 ネオンの光がビルの壁面を彩り、車のヘッドライトが途切れることなく続く。 人々の笑い声と音楽が交じり合い、街全体が生きているかのような活気に満ちている。 高層ビルの窓辺に映る無数の灯りは、まるで星空の反映のように瞬き夜空の輝きを霞ませる。 人の手による発展は輝きを天より地に落とした。 一方、田舎の夜は全く異なる趣きを持っていた。 人々の生活音はほとんど聞こえず、周囲にはどこか安らぎのようなものが広がっている。 遠くの山々から虫の音が微かに響き、風が草木を撫でる音が静寂を際立たせる。 空気は透明なまでに澄み渡り、空には数え切れない星々が輝きながら浮かび上がっていた。 雄大な自然は宝石のような輝きを天に際立たせていた。 この山折村はその狭間に立たされている。 開発の手が入った田舎町は都市部と山間部に二分され、双方の価値観が入り交じる混沌期に突入していた。 都会と田舎。現世と異界。生と死。二つの異なる世界が交差する境界線。 それがこの山折村だ。 そして今宵の山折村はまったく異なる様相を呈していた。 夜を彩るのは星々ではなく、淡く光る死者たちの魂の奔流。 その輝きは都会の夜とも田舎の夜とも全く異なる幻想の光。 魂たちの光が大地を照らし、夜の闇を穏やかに染め上げる。 まるで過去と現在が交錯する泡沫の夢のような。 幻想的でありながら幽世の景色のようで、どこか恐ろしい光景だった。 死者たちの作り上げた幻想の夜。 村中に浮き上がった魂の奔流は、たった一人の少女の下に集まっていた。 光を集めるのは、魂を繰る細菌の女王[HE-028-Z]。 掲げた手に光は集約し、山折村を揺り籠にした光の胎盤より巨人が生まれ落ちた。 地鳴りを上げて光の巨人が起立する。 空を覆い尽くすような巨体からは影すら落ちなかった。 何故なら、この巨人こそこの世界の新たな光源。 月よりも明るい太陽を得て、夜の草原は昼よりも眩く輝き始めた。 そんな死者の光に照らされる草原に、生者が二人対峙する。 女は悲壮を、男は覚悟を、その顔に貼り付けながら、互いに構えた剣を向け合う。 互いの目に映るのは互いの姿だけ。彼らには周囲の異変などまるで目に入っていなかった。 何故なら彼らはそれどころではない。 他に目を向けている余裕などあるわけがなかった。 一刀と二刀の違いはあれど、その構えには共通した理念を感じさせる。 それもそのはず。彼らは同じ八柳流の道場で共に汗を流し、同じ技を磨いた同門なのだ。 共に神童と呼ばれた八柳流の双翼が、磨き抜いたその技術を互いに向けていた。 一瞬の閃光を散らしながら金属が衝突する。 剣をぶつけ合う互いの心に、かつての日々がよぎった。 同じ道場で汗を流した訓練の日々の中で彼らは絆を含めていった。 哉太は茶子を慕い、茶子も哉太を愛した。 友人としても姉弟弟子としても理想的な関係を築けていた。 だが、今は違う。 哉太は女王を守るため、茶子は女王を殺すためにここに立っている。 目的が相反するのなら命を懸けてぶつかり合うしかない。 この運命の夜、二人は互いに剣を向け合わざるを得なかった。 「やめてッ哉くん! あなたは女王に操られているのよ!?」 「茶子姉こそ、女王を殺そうだなんてバカな真似はやめてくれ」 互いの主張と共に幾つもの弧を描きながら剣が舞う。 金属のぶつかり合う音が楽器のように草原に響き渡る。 舞い散る火花と、刀身が白い光を跳ね返して輝きを放ち、まるでどこかのテーマパークのようだ。 姉弟子である虎尾茶子は、怯えるような瞳で剣を防ぐ。 恐れているのは自らに迫る刃ではない。 彼女の目の前に立ちふさがるのは最愛にして最悪の敵。 茶子の中に沈殿する狂おしいまでの愛と憎。 彼女は誰よりも愛情深く憎しみも深い。 憎悪をなくせば愛情だけが残る幸せな世界。 そのはずだったのに、何故か目の前で愛が牙を向いていた。 茶子は悔しげに音を立てて奥歯を噛みしめる。 道場での修行の日々、共に過ごした時間、その全てが彼女にとって宝物だった。 僅かに残った黄金の欠片がどす黒い斑点に汚されてゆく。 なぜこうなったのか。 元凶は考えるまでもない。 村を侵したウイルスの親玉――女王だ。 感染者の頭に響く卑劣な声によって哉太の意志は捻じ曲げられ、こうして望まぬ戦いに身を投じさせられている。 「………ぁんの腐れ細菌女がぁあ! 絶対に殺してやる…………ッ!」 許し難い女王への殺意を募らせる。 今の彼女にできるのはそれくらいのものだ。 だが、忠実なる女王の騎士はそれすらも許さない。 「いくら茶子姉でも、女王への無礼は赦さない………………!」 弟弟子である八柳哉太は、主君のために姉弟子に向けて二刀を躍らせる。 眷属化。感染者は女王に従う忠実な眷属となる。 今の彼にとって女王の守護は何よりも優先される。 家族よりも、恋人よりも、大切な姉弟子よりもだ。 だからと言って哉太も辛くない訳ではない。 眷属化により女王の守護が最優先されるようになっただけで、八柳哉太としての価値観が全て失われたわけではない。 哉太からしても慕っていた姉弟子が、何よりも大切な女王を狙う不逞の輩だったのだ、思う所はある。 だが、女王への献身は全てに優先される。 己が血も肉も心も、全ては女王の物だ。 哉太は内心の葛藤を押し殺しながらも剣を振るう。 彼には大切な姉弟子を切り殺してでも女王の守護は成し遂げる覚悟がある。 それが望まぬ戦いであろうとも、攻め手を休めることはない。 覚悟を決めた哉太とは対照的に、茶子は後方に後退りながら防戦に徹していた。 茶子も自分自身が及び腰になっているのが分かる。 100人斬りを達成した剣の鬼は恐れていた。 立ち塞がる敵の強さをではない。 自らの敗北による死でもない。 恐ろしいのは自分自身。 それがどれだけ大切であろうとも。 どれだけ大事だったとしても。 きっと、茶子は殺せてしまう。 ひとたびスイッチが入れば誰であろうと斬り捨てられる 親友だろうと、恋人だろうと、恩人だろうと、一切の区別なく。 立ち塞がった100人のゾンビたちのように、何の感情もなく切り捨てられてしまうだろう。 茶子はそんな風に出来上がってしまった。 そんな風に、壊れてしまった。 自分自身がとっくの昔に壊れていることなど知っている。 これまでの人生を振り返ってみても、まともでいられる方がどうかしてるような人生だ。 そんなことは分かっている。 壊れて穢れて終わってしまった自分は間違い続けるだろうけど。 それでも大切な物や大切な人が出来たんだ。 それを守りたいと思う事すら罪なのか? 幸福を求めて、幸せになりたいと願う事すら許されないのか? そんなはずはないと。 そうではないと、自分自身を何よりも否定したい。 それを否定するためにがむしゃらになって走り続けた人生だった。 だけど、 だからこそ、 何よりも怖い。 自分が恐ろしい。 ――――こんなに大切にしている山折村だって、自分は切り捨てられてしまうのではないか? 「…………ッ!?」 金属と金属がぶつかり合う衝撃が茶子の手に伝わる。 手の痺れるような衝撃に意識が強制的に引き戻された。 茶子の体は無意識のうちに哉太の攻撃を防いでいた。 ゾンビとなった特殊部隊と同じだ、心が引けていても体が反応する。 誰よりも憎んだ藤次郎によって叩き込まれた日々の鍛錬と刀が茶子を守護っていた。 だが、それだけで何時までも逃げていられるほど甘い相手ではない。 茶子の迷いを突くように、哉太が一歩前に踏み込んだ。 一切の無駄がない滑らかな足運び。 八柳新陰流の基本を完璧に身につけた動きだ。 八柳新陰流『鹿狩り』 鹿を一撃で狩る鋭く重い斬撃を繰り出す、大きな力を込め相手の急所を狙う一撃必殺。 相手の防御を突き破る強烈な一撃を二刀同時に叩きつける。 しかし、茶子とて八柳新陰流の同門。その動きは知り尽くしていた。 事の起こりを読み切り茶子の体が反応する。 衝突する三つの刃。 剣が交わり火花が散った。 輝く草原に刹那の光が弾けて消える。 八柳新陰流『鹿狩り』の衝撃を『空蝉』にて受け流す。 過去の手合わせではこの手法で何度も防いできた。 完全な防御であったはずだった。 「…………ッ!?」 だが、茶子の体勢が崩れる。 受け流したはずの攻撃が止まることなく降りぬかれる。 茶子の防御は完璧だったが、哉太の力がそれを凌駕した。 受け流しとは100の攻撃を0にする技術ではない。 100の攻撃を80の力を流し、受けきれる20の力に軽減する技術だ。 撃ち込まれた『鹿狩り』は『空蝉』で受け流してもなお、茶子の体勢を崩すだけの重さを持った痛烈な一撃だった。 この地で強敵との度重なる実戦を経て哉太の技前は剣聖の域にまで達した。 奥義を開眼し皆伝に至った哉太は、今や茶子に引けを取らぬ技量を持った使い手と言えるだろう。 互いの技量は互角、ならば明暗を分ける差は純粋な肉体面だ。 満身創痍の茶子に対して回復の異能により常に哉太はベストコンディションを保てる。 加えて、魔聖剣による身体強化によってフィジカルでは完全に茶子を圧倒していた。 もはや茶子にとって哉太は未熟な弟弟子ではなく、格上の相手となっていた。 逃げ腰のまま勝てる相手ではない。 このまま戦う意思を見せなければ死ぬのは茶子の方だ。 「茶子姉…………ッ!!」 体勢の崩れた茶子に向かって赤い剣が奔る。 哉太とて無抵抗の姉弟子を切り殺すのは心苦しい。 だが今の哉太は忠実なる女王の騎士、心苦しくとも剣は鈍らない。 茶子の目の前に死が迫る。 別に生きたいわけじゃない。 汚泥の底を這うような最低の人生だった。 生きること自体に大した未練などない。 だからと言って死にたいわけでもない。 茶子には成すべきことがある。死んでも成し遂げたい夢がある。 自分を救ってくれたこの村を綺麗して、自分の様な誰かを救いあげる。 それを成し遂げるまで死ぬわけには――――。 「――――私は……まだッ!!」 茶子の体が跳ねた。 崩れた体勢を立て直すのではなく、倒れ込みながら降りぬかれた聖刀の下を潜るように自ら跳んだ。 そのまま横回転をしながら、二刀の隙間を縫うように剣を跳ね上げる。 倒れ込んだ体勢で縦に跳ね上げる『蠅払い』を崩した、曲芸『逆風車』が哉太の胴に縦一文字を刻む。 「……くっ」 哉太がたたらを踏んで後方に下がった。 左の腹部から肩にかけて刻まれた傷口から血が噴き出す。 だが、その傷も強化された異能によってすぐさま塞がって行く。 「ようやくッ。まともに戦う気になったか、茶子姉ぇ!」 猛るように吠える哉太の言葉には歓喜の色が含まれていた。 望まぬ戦いであるとしても、一方的な虐殺ではなく剣士として尋常な勝負ができる。 愛する姉弟子との戦いだからこそ、二人の決着はせめてそうあるべきだ。 「ハァ……ハァ……………私は」 心臓の鼓動が聞こえる。 渇きに喉が張り付く。 眼の多くが燃え上がるように熱い。 ああ、そうだ。 目的の前に立ちふさがるのなら、茶子は、きっと。 乱れた息を整える事もせず、刀を構える。 対する哉太は一糸も乱さぬ静かな呼吸で天地に二刀を構えた。 動と静。熱と冷。炎と氷。恐らくこれが互いのベストコンディション。 示し合わせたように同時に駆け出す。 そして、互いの剣が、ぶつかり合おうとした刹那。 横で行なわれている戦闘の余波で地面が爆ぜた。 ■ 死で輝く草原にて、八柳流とは違うもう一つの戦いが行われようとしていた。 女王の守護者は騎士である八柳哉太だけではない。 女王には最強、いや最大の護衛がいる。 不気味な静寂が漂う光の中心に起立するのは、圧倒的な威圧感を放つ巨人ダイダラボッチ。 山折村の死を凝縮して生まれた魂の集合体。 全身を輝かせる光の渦が脈動しながら表面を渦巻いていた。 それは清廉な光でありながら、神々しさよりも冥界を思わせる寒々しさを感じさせる。 巨人に対するは魔王殺し天原創。 政府の諜報組織に才覚を認められた若き天才エージェントである。 だが、そんな肩書がこの場においてどれほどの役に立つだろうか。 巨人とは比べるべくもない、悲しくなるほどのサイズ差を前にすれば天才もただ小さな少年でしかない。 しかし、まだあどけなさを残した少年の顔に浮かぶのは諦めではなかった。 その眼には勝利を諦めない強い意志が宿っており。 頭の中ではどう戦えばいいのかシミュレーションが続けられていた。 創が駆け出す。 巨人の手は創の身長よりも遥かに大きい。 振り下ろされてから動いたのでは避けようがない。 この勝負、足を止めた時点で終わりである。 眩いばかりの標的を視界の端に収めながら、斜めに遠ざかるように全速力で駆け抜ける。 殆どバック走のような体勢でありながら下手な陸上部なら追い抜けるほどの俊足である。 そんな体制で止まることなく創はスタームルガーを構えた。 ダブルアクションのレッドホークを流れるように連続で撃ち込む。 重なるように3つの銃声が響く。 3連射された44マグナム弾は全弾命中。 もっとも、これ程巨大な的であれば素人でも外しようがない。 着弾した弾丸が巨人の足の表面をわずかに弾けさせた。 だが、その傷は蠢く光の渦が脈動し、見る見るうちに修復していった。 硝煙を置き去りにしながら落胆するでもなく創は冷静に結果を分析する。 分かっていた事だが、やはり大型獣すら屠り去る大口径も豆鉄砲ほどの効果もないようだ。 やはり、切り札になりそうなのは右手に宿った異能だ。 と言うより、それ以外に効果がありそうな武器が創にはない。 振り下ろされた巨人の手に合わせて触れることはできるだろう。 だが、巨人はこの村で死した魂の集合体である。 純粋な魂は創の右手で消し去れるとは思えない。 希望的な観測をするならば、魔王の力である死霊術を打ち消すことが出来るかもしれない。 だが、失敗すればミンチどころの騒ぎではない。 いや、成功しても最悪、衝撃で創の体は潰されひき肉となるだろう。 やはり質量差がありすぎる、触れた時点でおしまいだ。 撃ち込まれた弾丸を全く意に介さず、巨人が一歩を踏み出した。 まるで山そのものが動いているかのように、それだけの動作で空気が揺れ、轟音が響く。 その一歩が地に落ちると地震のように地面を揺さぶり、草原に巨大な足跡を刻んだ。 そうして、踏み込んだ巨人は山のように巨大な拳を真上に振り上げた。 緩慢な動きに見えるが、それはサイズ差による錯覚に過ぎない。 光を帯びた拳が高速をもって振り下ろされる。 瞬間、まるで轟雷のような空気が裂ける音が鳴り響いた。 光が降り落ちる様はまさしく神の雷である。 空気の壁を打ち破りながら、巨人の拳が地面に叩きつけられた。 その一撃によって地面に衝撃波が広がり、深い亀裂と共に大地を砕いて地形を一変させる。 駆け抜ける創の俊足はその拳の範囲から既に逃れていた。 だが、それでも周囲に伝播するその余波だけで創の体が宙に吹き飛ばされる。 まるで天災のように破壊の限りを尽くす、まさに破壊の化身だ。 草原に投げ出された創は受け身を取りすぐさま立ち上がる。 そして止まれば負けだと言わんばかりに一瞬の迷いなく再び駆け出した。 だが、その顔には若干の焦りの色が浮かんでいた。 ここに来るまで、対女王の準備はしてきた。 しかし、光の巨人は白兎との戦力分析(スカウティング)では登場しなかった要素である。 創にとっても完全なる想定外だ。 いや、想定していたところで何ができたというのか。 あまりにも規格外すぎる。 この怪獣を相手にするには戦車や戦闘機が必要だろう。 目算でも巨人の大きさは50メートル以上はある。 ちゃちなナイフや銃も通用するわけがない。 ヘラクレスでもあるまいし巨人相手に格闘戦など問題外である。 歩兵では戦いにすらならない。 ならばと、創は狙いを変える。 止まることなく駆け抜けながら再度銃を構える。 しかし、今度の銃口の先にいるのは巨人ではない――――女王だ。 直接女王を討つ。 創たちの勝利条件は女王の討伐である。 巨人を無視しても女王さえ打ち取れればそれで勝ちだ。 創は照準の先にある同級生の顔に向けて躊躇うことなく引き金を引く。 だが、放たれた弾丸は女王に届くことなく、上空から差し込まれた巨大な掌に防がれた。 巨大な指の間から見える女王の表情は、何をしようと届かないと言わんばかりの不敵な笑みを浮かべていた。 「…………ちっ」 舌を打つ。 やはり、いきなり王将は取れないようだ。 女王を討伐するにはまず光の巨人を打ち倒す必要があるようだ。 分かりきっていた事だが、珠らしからぬ顔をする女王の態度はむかついた。 「では、ここは任せる。存分に遊べ、我が僕たち」 言って、女王が踵を返して歩き始めた。 この場を立ち去ろうとする女王がどこに向かうのか。 アニカから経緯を聞いている創にはすぐに分かった。 失った願望機の回収。つまり、同じ目的で動いているアニカが危ない。 「ッ! 待てッ!」 すぐさま創がその後を追おうとするが、山のような巨体が間に立ちふさがる。 「くっ…………」 その圧力に後退を余儀なくされる。 その隙に、女王の姿は輝く草原から離れて行き、闇の中に消えていった。 それでもなお女王の後を追うとする狼藉者に巨人が手を振り上げる。 その動作は、先ほどまでとは僅かに違った。 振り上げた手はグーではなくパー。 拳ではなく広げられた掌が蠅でも潰すみたいに地面に叩きつけられる。 空気が炸裂する。 作り出された巨大なクレーターから衝撃波が輪のように広がり、砕け散った地面が波のように隆起する。 なんとか直撃を逃れた創の体は、その破壊の津波に飲み込まれた。 だが、創はその流れに逆らわなかった。 逆らうのではなく自ら流れに乗る様に、地面の隆起に合わせて跳躍した。 発射台から打ち出されるように大きく宙に吹き飛ばされながら、創は身を捻って周囲を見渡す。 砕ける大地の破片が視界を横切る。 常に視野は広く、頭だけは何があっても冷静に。 それが創の叩き込まれたエージェントの在り方だ。 圧倒的な障害を前に、戦略を練り直す必要があった。 巨人の攻撃を避けるだけではいつか疲弊して捕まってしまう。 何か突破口を探すべく、空中で鷹の眼の如く大地を見つめた。 草原にあったのは離れた位置で破壊の余波を浴びながら、それでも止まらず剣を合わせる八柳流の剣士たち。 創には光の巨人が立ちふさがり、茶子も哉太に足止めを喰らっている。 巨人と騎士に足止めを喰らい、女王の後を追えるものはいない。 状況を打開するには、これを解決する必要がある。 「……ッ!」 創は地面を転がりながら着地して、流れるように立ち上がると同時に駆けだした。 無傷ではない、全身に隠しきれないダメージがある。 だが、止まっている場合ではない。 これまで決して逸らさなかった視線を切って、完全に巨人に背を向けて駆け出す。 巨人がその動きを追うように一歩踏み出す。 それだけで創の背後の地面が大きく揺れた。 創は巧みなボディバランスで地震の中を構わず駆け抜ける。 満員電車を全力疾走するかのように。 どこかを目指すように一心不乱に前へ。 だが、創を背後より照らす光の様子が僅かに変わった。 これは光源たる巨人の体勢が変わった事を意味している。 そこに無視してはならない不審な気配を感じとり、創は首だけを背後に返した。 その目が大きく見開かれる。 振り上げられた腕は真上ではなく、捻りを加えた斜め横に掲げられていた。 つまり、次なる一撃は振り下ろしではなく薙ぎ払い。 降りぬかれる巨人の腕は創の疾走よりも圧倒的に速いだろう。 次に腕を振り抜かれた瞬間、創は確実に終わる。 終わりを告げるように、轟と風を切る音が響いた。 一帯を薙ぎ払う巨大な腕に逃げ場などない、人間の足では回避は不可能。 押し出された塊のような風圧が、創の体に叩きつけられる。 だが、薙ぎ払われるはずだった強大な光腕は、創に触れる寸前でピタリと静止した。 その原因は創の向かう先にあった。 駆け抜ける創が向かったのは巨人の下でも、ましてや女王を追った訳でもない。 その足の向かう先には刃を交える2人の八柳流がいた。 より正確に言うならば、ダイダラボッチと同じ女王の守護者である八柳哉太がいる。 大範囲のダイダラボッチの攻撃に哉太を巻き込んで守護者同士を潰し合わせる。 それが創の目論見だろう。 だが、ダイダラボッチは木偶ではない。 同じ女王の守護者たる哉太の姿を認め、創の狙いを読んで自ら攻撃の手を止めたのだ。 創の目論見は失敗に終わった、かに見えた。 ダイダラボッチの手が止まろうと、創の動きは止まらなかった。 急停止した腕の風圧に押し出されるようにして、光る腕に照らされ輝く草原を飛ぶように駆け抜ける。 そのままの勢いで激しく剣を合わせる剣劇の渦中に突っ込んでゆく。 それはちょうど、茶子と挟み撃ちのような形になる哉太の背後を取れる位置である。 互いしか見えていない視野狭窄に陥っている八柳流の二人に視野を広く持った創が突撃した。 2対1でまずは哉太を潰す。それこそが創の真の狙いだ。 「創……………ッッ!!」 だが、哉太がこれに反応する。 2対1であろうとも対応できるのが二刀の強みだ。 鍔迫る一刀で茶子を抑えこみながら、向かい来る創へと赤い聖刀を振り下ろさんとする。 片手であろうとも、剣聖に至った哉太はその一撃を外すまい。 駆ける創に向かって斬撃を合わせる。 迫る創と哉太の斬撃が交差せんとする、その寸前。 創が哉太と鍔迫りをしている茶子に叫ぶように呼び掛けた。 「一瞬でいい! 動きを抑えてください!」 「ッ!?」 茶子が鍔迫りをしていた刀同士を突き合わせながら、絡めるように指を伸ばした。 指取りにより相手の動きを一瞬だけ制する合気技、八柳流『小鳥枝』。 哉太はすぐさま固められた指を解いて振り払うが、一瞬の隙を作るにはそれで十分。 その隙を突いて鬼ごっこやカバディのように、すれ違いざま創が素早く右手で哉太の頭部にタッチした。 攻撃にも満たぬ、ただ触れただけの軽い接触。 だが、ただそれだけで、無敵の耐久力を誇る哉太が意識を刈り取られたようにその場に膝から崩れ落ちた。 眷属化は脳内にあるウイルスの女王を守護らねば自分が死ぬという生存本能に影響されたものである。 ゾンビの一時的に意識を昏倒させたように、ウイルスの動きを一時的に停止させた。 眷属化された哉太の意識はウイルスたちと共に活動を停止した。 風圧に押されそのまま哉太の脇を駆け抜ける創が、通りすがりにガンホルスターを茶子に向かって投げ渡す。 「拘束を!」 「……ッ!」 端的な指示に反射的に反応して、受け取ったガンホルスターを使って茶子が意識を失った哉太の手足をきつく縛りあげた。 同時に、哉太の手から地面に落ちた聖刀神楽と折れた魔聖剣を回収する。 拘束を完了した茶子が大きく息を吐く。 創の機転により哉太の制圧が完了して望まぬ戦いから解放された。 安堵と先ほどまでの冷めやらぬ興奮が混じった複雑な吐息だった。 ダイダラボッチは戸惑うようにその様子を見つめる事しかできずにいた。 象が蟻を踏み分けることなどできないように、ダイダラボッチにとって周囲を巻きこみかねないその大きさは最大の弱点だ。 哉太が周囲にいる限りダイダラボッチは攻撃を躊躇せざるを得ない。 だが、それも長くはもたないだろう。 女王を守護するためなら、同じ守護者を殺してでも構わないという決断に至るまでのわずかな猶予だ。 「茶子さんは女王を追ってください」 その猶予の間に創は茶子へと指示を出す。 茶子の中で女王への殺意は滾っている。 何より、哉太を元に戻すには女王を殺すしかない。 その機会を果たせる要求は茶子にとっても望むところだ。 「だが、どこに向かったってんだ?」 「おそらく、リンさんの所です…………!」 アニカはお守りを回収するためリンの死体がある診療所に向かったはずだ。 リンの名を聞いた茶子が胸を押さえて苦悶するように表情を歪める。 「………………何で分かる?」 「リンさんの持っていた御守りが願望機を発動させる鍵なんです。アニカさんもそれを探しています」 女王とアニカの間で願望機を廻る争奪戦が行われている。 下手をすれば、願望機とそれを発度する鍵を女王が取り戻してしまう。 その言葉だけでそこまでは理解した。 だが、それはつまりリンの下に戻ることになる。 それを考えただけで、どうした訳か茶子の体からは脂汗が滲み動悸が早くなる。 目を背けてきた事実と向き合うことを意味していた。 「急いで…………ッ!」 「くっ……ッ! 分かったよ!」 創の言葉に押し出されるように茶子が駆け出した。 状況は差し迫っている。 女王を追うべきだと言う創の意見は反論の余地はないほど正しい。 女王に願望機を渡してはならないという目的意識が茶子の足を突き動かした。 だが、その去り際、思い出したように振り返り、創へと何かを投げ渡した。 咄嗟にキャッチしたそれは創が渡した発信機だった。 「…………あたしは、その光を辿ってその途中で女王と遭遇した。後は上手くやれ」 それだけを告げて、光から遠ざかるように暗闇の中に向かって行った。 その背を最後まで見届けることなく創もその逆側に向かって駆け出す。 女王を追う茶子の支援のためにダイダラボッチを引き付ける必要がある。 「こっちだデカブツ、追ってこい!」 挑発しながら駆け出す創を追って巨人が動く。 体よく攻撃を躊躇わせる囮に使いはしたものの、出来るのなら哉太が潰されるのは創としても避けたい。 巨人の気を引くように銃弾を撃ち込みながら、哉太から離れる。 女王を追う茶子よりも女王に命じられた創の抹殺を優先したようだ。 その地鳴りを合図に巨人と少年の追いかけっこが再開された。 こうして、茶子は女王を追い、創はダイダラボッチを引きつけるべく走り去った。 誰もいなくなった草原にしばしの静寂が訪れる。 女王を追う茶子を巨人が見逃した理由。 細菌殺しを持つ創の方が女王にとって脅威であったというのもある。 だが、それ以上に理解していたからだ、茶子の相手はもう一人の守護者がする、と。 遠ざかる巨人の足踏みに揺れる草原。 既にこの場を去った2人に気づくことなどできるはずもないのだが。 この場に拘束されていたはずの哉太の姿は、いつの間にか草原から消えていた。 ■ アニカは一人夜空に浮かぶ星を見上げていた。 それは夜の星に思いを馳せるなどと言うロマンチックな理由ではない。 あの星こそがこの村を終わらせるための願望機、願いを叶える願い星なのだから。 この村にこれまでにない異常が起きていた。 先ほどまでアニカの周囲を流れ星のように謎の光が流れていた。 地を這う流星群は一か所に収束され、そこから数キロ離れた遠方からも目視出来る光の巨人が生れ落ちた。 この夜に浮かび上がるように光り輝く巨人は遠近感を狂わせ、すぐそばにいるような錯覚を齎す。 この村でこれ程の異変を起こせるものなど、アニカの知る限り一人しかいない――女王だ。 恐らく、哉太や創が彼女と戦っているのだ。 あの巨人はそのために産み落とされたものだろう。 一体何が起きているのか。 真実を求める探偵としての知識欲が、詳細を確かめに行きたい気持ちを沸き立たせる。 だが、対女王に関しては創に任せた。 アニカが今行うべきは願望機を回収して山折村を正しく終わらせることだ。 それこそがアニカに課せられた課題であり、最大の難題である。 アニカは標的を見上げた。 目測では測りづらいが、少なくとも100mは離れた遥か上空に願い星は浮かんでいる。 アニカの異能テレキネシスは周囲の物体を動かす能力だが、空を浮かぶ願い星はその遥か射程外だ。 仮に届いたところで、どう固定されているのか理屈が不明である以上、引き寄せられるかもわからない。 やはり何らかの飛行手段が必要だ。 飛行。と言う言葉にアニカの脳裏に浮かぶのは女王に連れていかれた高所の光景。 上空に浮かぶ願い星も飛行手段を持つ女王であれば簡単に回収可能である。 そうなっては存在を懸けて願望機を奪取した白兎の覚悟が無駄になってしまう。 この問題は後回しにできない。 この場で回収する手段を考えなければならない。 何か手段はないか。アニカは頭をフル回転させ方法を模索する。 例えば、遠方で光り輝くあの巨人であれば届くかもしれない。 あの巨人を上手くこちらに誘導してその体を登れば、あの星に手が届くだろう。 だが、あんな怪物をどう誘導するというのか? 誘導出来たところで、大人しく登り台になるとは思えない。 どう考えても現実的な方法ではない。 銃などの遠距離武器で撃ち落とす方法はどうか? 100m先にも弾丸なら十分に届く。 上手く地面に撃ち落とすことができれば回収は可能だろう。 だが、それを行うにはまず銃を探すところから始めなくてはいけないし、100m上空に当てられるような銃の腕はアニカにはない。 なにより、当たり所によっては願望機を破壊しかねない。 クリアすべき課題が多すぎる。 異能の覚醒に賭ける。 遠方のアイテムを回収するのにテレキネシスは方向性自体は合っている。 後は射程と強度。これを覚醒で補えることが出来れば回収は可能だろう。 だが、そんな簡単に覚醒できれば苦労はしない。 あるかもわからない覚醒を待つなど不確実すぎる。 方法の一つとして上げるのも烏滸がましい。 用意できる道具で考えれば、布と火種があれば簡単な熱気球くらいなら作れなくもない。 だが、願い星のものとまで届く気球を作ったとして、そこからどう回収につなげる? 紐でもつなげるにしても100m以上の長さのロープなど都合よく用意できるはずがない。 ならば、上空を飛び回るドローンを利用するというのはどうか? この村の監視のために飛び回っているドローンの存在にはアニカも気づいている。 世界が滅ぶ瀬戸際だ、特殊部隊のとの協力が取れればドローンの利用も不可能ではない。 アームやグリッパを装備したドローンであれば、上空の願望機も回収できるだろう。 今まで出た案の中では一番現実的だが、問題も多い。 どうやって意図を特殊部隊に伝える? ドローンを換装する時間も必要だ。 なにより、向こうが素直に従ってくれるとは限らない。 やはり実現するのは厳しい。 八方ふさがりだ。 提案と問題定義の自問自答を繰り返すが、どれだけ考えても方策は浮かんでこない。 こう結論付けざるを得ない、今のアニカに願望機を回収する手段はない。 たった一つの真実を見抜く謎解きと違い、これは答えのない問題だ。 前提条件からして不可能問題を解かされている。 だが、不可能を可能にせねばならない。 生き残りはみな女王との戦いに向かっている、助けは期待できない。 その上アニカの把握している範囲では、生き残りの中に願望機回収に有用な異能は存在ない。 これは、アニカ一人で解決しなければならない問題である。 どうする。どうすればいい? 『……カ……アニカ……!』 何かないのか? 焦燥ばかりが加速していく。 そんな思考の海に沈んでいたアニカを、足元の白兎の声が現実に引き戻した。 『周囲を見るんだアニカ……光が』 「What....?」 白兎の言葉に首をかしげながら、その指示に従い周囲を見渡す。 確かに先ほどまで周囲は光の奔流に包まれていた。 だが、既に光は一か所に集約されており、アニカの周囲は薄暗い闇に包まれている。 いや、違う。 遥か遠方で光源となっている巨人とは違う、すぐ近くに別の光がある事にアニカは気づいた。 それは自らの背後、背負っている荷物から放たれたものである。 その光が、先ほど流れて行った光と同種のものだと気づき、アニカはすぐさま自分の荷物を漁った。 取り出した、それは砂金のように美しい一束のグラデーションのかかった金の髪だった。 金田一勝子の遺髪である。 彼女の遺髪が淡い光を帯びていた。 ――――人の魂はどこに宿るのか? 歴史上、魂の存在を証明できた研究者はおらず、その答えは未だ不明である。 魂は肉体に紐づくものであるという解釈が一般的だろう。 実際に女王は死霊術によってこの村で死亡した魂を復活させた。 その多くの魂は死した肉体から、淡く輝く光となって浮き上がっていた。 だがもしあるいは、人の魂は肉体ではなく精神(おもい)に宿るとするならば。 ここより遥かに離れた草原で眠る体ではなく、彼女の魂(おもい)はこの遺髪に宿っても不思議ではないのかもしれない。 「ッ…………!?」 強い風が吹いた。 アニカの手にしていた遺髪の一部が、風に攫われる。 金の髪は巻きあがるように風に乗って夜の空に舞い上がった。 自由の翼を広げてどこまでも飛び立つ鳥のように。 渦を巻いて舞い上がる砂金の髪は、天高く浮かぶ願い星に触れた。 瞬間、力強い光があった。 死者たちの放つ淡い光ではない。 何時だって勝ち気で頼りがいのあった彼女の様な強い光が。 強い光にアニカが目を細める。 その瞬間、手の中に確かな重みを得た。 彼女が次に目を開くと、その手の中に奇跡はあった。 『奇跡はその手の中に』 空に瞬く願い星は少女の手に。 それは100メートル以内の対象の位置を入れかえる金田一勝子の異能。 遺髪に触れた願い星は、こうして少女の手の中に落ちた。 アニカの頭脳をもってしても、何が起きたのか完全に理解した訳ではない。 それでもただ一つ分かる事は、死してなお自分を助けてくれた存在があったという事だ。 死霊術によって蘇生された彼女の魂は、女王の招集に応じるでもなくこうして遺髪へと留まり続けた。 そうして今、迷える探偵少女のこれ以上ない助けとなったのだ。 思いもよらぬ助けによって最大の懸念点である願望機は回収できた。 後は診療所に向かってリンの死体から御守りの回収を行なえばアニカに託された任務は完了だ。 ようやく達成困難な難題のゴールが見えてきた。 だが、そこに足音が響いた。 アニカが咄嗟に願望機を抱きかかえるようにして目を向ける。 光を背にした闇の中から現れたのは少女の姿をした一つの影。 幾度も顔を合わせた相手だ。 その存在を見間違うはずもない。 「…………女王!」 女王。そう呼ばれるこの騒動の中心。 創や哉太たちが戦っているはずの相手が何故ここに? そんな疑問を挟む余裕すらなく、アニカは追い込まれる。 「おや、それは願望機かな? 私の為に取り戻してくれたんだね、ありがとう。天宝寺アニカ」 「くっ…………!!」 冷や汗をかくアニカとは対照的に。 汗一つ書くことなく悠然と女王は歩を進める。 「では、それを渡してもらおうか、天宝寺アニカ」 ■ 「ハァ…………ハァ…………ハァ」 女王を追っていた茶子が診療所まで到達した。 逃げるように立ち去った場所へと自らの足で立ち戻ってきた。 頭痛がする。心臓が痛い。喉が渇く。 過呼吸気味なのは100人斬りとここまで走ってきた疲労だけが原因ではないだろう。 「ッ……ハァッ……ハァッハァッ……!」 診療所の中庭。 そこにアニカと女王がいるという創の予測は外れていた。 ただ、そこには茶子が目をそらしていた悲劇が広がっていた。 周囲にアニカも女王もそれらしい姿はない。 あるのは無惨な二つの首なし■■。 何よりも救いたかった過去の自分。 それを救えなかった現実を突きつけるように、冷たく現実が横たわっている。 それは最低限身なりこそ整えられているが、自分が切り殺した少女と嘗ての自分だった少女だ。 「………………ああ」 何かに気づいたような諦観した声。 それを目の当たりにして、過剰だった呼吸が徐々に落ち着いていく。 灼熱から絶対零度の沼に落ちるような不思議な感覚だった。 温度差に自分の外面が剥がれて堕ちる。 茶子はここで自分自身(リン)を失った。 その現実を認める。 力なく膝をついた。 少女の肢体に向かって震える手を合わせる。 それは祈りを捧げる聖女ようでもあり、許しを請う迷子のようでもあった。 長い祈りの末に顔を上げる。 開かれたその目は先ほどまでの熱狂した色とは違う、虚ろで冷たい色をしていた。 そっと首がなくなったリンの胸元に手をやり、自分が渡した御守りを回収する。 「そうか…………きっと……」 風が中庭の木々の間をそよぎ、葉擦れの音が呟きをかき消す。 刹那。虚ろな瞳が見開かれ、茶子は振り返るよりも早く逆手で刀を抜いて自らの背後を突いた。 赤い飛沫が飛び、鋭い刃が肉を貫く感触が手に伝わる。 背後に迫った気配に気づき、茶子はこれを貫いたのだ。 しかし、その手応えが薄いことに気づく。 彼女が貫いたのは相手の掌だった。 茶子が刀を引き抜くより早く、相手は掌を貫いたまま刀を握りしめる。 相手の指がさらに深く刀を握り込むと血が滴り落ち、地面に赤い斑点を描いていく。 ガッチリと固められた刀ごと手首を捻られる。 僅かに緩んだ彼女の手から刀が完全に抜き取られた。 新陰流の無刀取り、と呼ぶにはスマートさに欠けるごり押しである。 刀を奪われた茶子はすぐに距離を取ろうとしたが、相手の動きはさらに速かった。 相手は一歩前に踏み出し、自らの掌という鞘から刀を抜き出し、抜刀術のようにそのまま一閃する。 茶子は身を翻してその攻撃を避けると、そのまま距離を取って相手の姿を見据えた。 そこに立っていたのは、彼女が予測をしていた通りの相手だった。 「哉くん…………ッ!!」 八柳哉太。 彼女の愛する弟弟子。 だが、哉太は確かにガンベルトできつく手足を縛り上げて拘束したはずである。 そう簡単に外れるような甘い縛り方はしていない。 どうやって抜け出してここまできたのか。 その答えは、縛り付けた手足周辺の破れた着衣にあった。 女王の招集に応じたゾンビたちが自らの欠損を省みず集結したように、女王の命令にはそれだけの強制力がある。 皮や肉を削る痛みを無視できるなら、拘束から脱することは難しくない。 何より、哉太は再生の異能によりその代償を踏み倒せる。 再生の異能と女王の強制力が合わされば拘束は無意味だ。 この不死身の騎士を止めるには、もはや殺すしかない。 刃を奪い取った哉太は、多くの村人を切り殺した祖父の刀を手にした。 一瞬で回復した両手で日本刀を握りなおすと、自らの血を払う。 対する、茶子は哉太から没収した赤い聖刀神楽を構える。 回復してきたとはいえ、茶子の右手はまだ完全ではない。 それ以前に茶子は二刀向きではない。 荷物になるだけの折れた魔聖剣を哉太に回収できない遠くに投げ捨てる。 奇しくも先ほどの小競り合いとは武器交換する形になった。 異なるのは、今度は互いに一刀同士であること。 そして、逃げ腰だった茶子の姿勢が前のめりに変わっていた事だ。 勝負の開始を告げるように渾身を籠めた両手持ちの一撃を互いに打ち付けあう。 炸裂するように、大きな火花が散った。 同時に、茶子の体が後方に数歩押し出される。 渾身の衝突は哉太が僅かに上回った。 やはり力では哉太の方が上。だが、先ほどまでのような絶対的な差はない。 魔聖剣を手放したことにより魔力による身体強化がなくなったからだろう。 差はあるが、それはあくまでコンデイションと男女の筋力差の範疇だ。 打ち合いに押し勝った哉太が更に剣を押し込む。 これに対してすぐさま体勢を立て直した茶子も負けじと剣を合わせた。 そのまま、正面からの激しい打ち合いとなる。 鋭い剣の動きが光の筋を描き、剣が風を切り裂く鋭い音が響く。 刃が交錯するたびに火花が散り、互いの技巧が火花となって空中に舞い上がった。 刀身がぶつかるたびに耳をつんざくような金属音が響き渡り、その音は遠方まで反響する。 その剣劇は踊るかのように滑らかでありながら、刃の一撃一撃には命を奪う確かな意思が込められていた。 一つのミスも許されない攻防は激しさを増して行く。 だが、力だけではなく手数の上でも徐々に哉太が茶子を上回り始めた。 哉太から繰り出されるのは無呼吸での打ち込み。 無酸素運動は体内の酸素を消費して高CO2状態を引き起こし、無理に続ければ最悪意識を失う事になる。 だが、それは今の哉太には適用されない。 二酸化炭素の蓄積は異能により回復されてゆく。 故に、その連撃には際限がない。 加速するその剣は茶子の防御を打ち崩さんとする隙間ない斬撃の豪雨となる。 凄まじい剣圧に追い詰められる茶子。 防ぎきれなかった斬撃に頬や手足の端々が切り刻まれていく。 しかし、その顔に焦りの色など微塵も浮かんでいなかった。 「フゥ――――――ッ!!」 茶子が鋭い息を吐く。 その呼吸に合わせて無呼吸連撃の刹那を縫う神域の斬撃が放たれた。 互いの斬撃は、クロスカウンターのように互いの体を切り裂き合う。 だが、浅い。 哉太の斬撃は茶子の胸元を僅かに裂くに留まり、茶子の一撃も哉太の肩口を僅かに裂いただけだ。 女王の騎士にとっては瞬きの間に回復する程度の傷である。 だが、攻撃の手を止めるにはそれで十分。 剣の雨が止んだ中を茶子は進む。 一瞬で懐にまで踏み込むと赤い打刀で喉元を突いた。 「く……………っ!?」 哉太は軸をズラすように回転して身を転じる。 そしてそのまま竜巻のように回ると、遠心力を籠めて斬撃を放った。 茶子は片手持ちにした刃で哉太の攻撃を受け流すと、同時に空いた手で彼の腕を掴んだ。 虎尾流の開発により、片手剣の扱いに長けるようになった茶子の強み。 相手の回転を後押しするように腕を引っ張り込み体勢を崩す。 そして、そのまま地面に哉太を押し倒すと、転がった哉太の顔面に向けて赤い聖刀を突き下ろした。 哉太は咄嗟に首を動かしその突きを避ける。 同時に馬乗りになろうとする茶子の腹を足裏で蹴とばして引きはがした。 即座に立ち上がった哉太の背に温い汗が伝った。 先ほどまで哉太の殺害を躊躇っていた剣から一変して、容赦や躊躇いと言う物が消えていた。 決して殺したいわけではないだろうが、少なくとも殺してもいいところまで心理的ハードルが引き下がっている。 それはいい。 哉太とて女王の為に茶子を殺す覚悟だ。 ようやく互いは対等になったと言える。 それよりも哉太の頭を困惑させるのは異様な茶子の様子だ。 茶子は激情を剣に乗せる烈火の様な剣風である。 目の前の茶子は深く水底に沈むようである。 哉太を殺す覚悟を決めた? いや、祖父に向けていた激情のような殺意ともこれは違う。 そんな単純な殺意(もの)ではない。 長い付き合いの中でも、こんな姉弟子は見たことがない。 これが哉太に見せていなかった本当の顔なのか? 元より、無邪気な子供じみた純粋さとアリを踏み潰す子供じみた残酷さを兼ね備えた人だった。 ふとした拍子に大人びた影を帯びることはあった。臆病な攻撃性と強気な虚勢を張る人だった。 人間には誰だっていくつもの顔をもっている。多面性の一つや二つあってもおかしくはない。 だが、そこにパッチワークのような違和感を覚え始めたのはいつからだろう。 目の前の相手は、本当に自分の知る姉弟子か? そもそも彼女の本当など、どこにあるのだろうか? 茶子の体から緊張は解かれ、脱力したように剣先が揺れる。 それは、いかなる心境の変化か。 虚ろな瞳で独り言のように呟く。 「大丈夫だよ、哉くん…………全部うまくいくから」 ■ 「…………Why are you here?」 アニカが前に現れた女王に問いかける。 計ったようなタイミングでピンポイントに女王は現れた。 人一人見つけるのはそう簡単な話ではない。 女王はどうやってアニカを見つけたのか。 「不思議かい? なんのことはない。私は感染者の場所が分かるのさ」 全ての[HEウイルス]は女王を中心に繋がっている。 女王は第二段階に至りその繋がりを自覚的に辿れるようになった。 つまり女王は感染者の位置をある程度特定できる。 「さて、願望機を返してもらおうか」 女王がアニカの抱える願望機に向けて手を差し出す。 だが、そう言われて素直に渡すわけがない。 『…………アニカ、私を置いて逃げるんだ!』 「そういうワケには、いかないでしょッ!!」 白兎にはもはや自力で逃げる力も残っていない。 アニカは願望機と白兎を両脇に抱えて駆け出した。 「逃がさないよ」 そう来ると分かっていたように女王が『魔王』の力である魔法を操る。 放たれた炎が鞭のようにしなり、アニカの背を強かに打った。 しかし、その鞭はアニカに触れた瞬間、パチンと弾かれる。 「おっと、そうだった」 どうでもいい事だったかのように反省の弁を呟く。 高魔力体質を持つアニカに魔法は通用しない。 魔法ではアニカの足を止めることはできない。 「では、異能(こっち)だ」 その場から、女王の体が消える。 『剛躯』と魔力による身体強化で地面が爆ぜるような強烈な踏み込みを行う。 『村人よ我に捧げよ(ゾンビ・ザ・ヴィレッジクイーン)』 生存しているゾンビの異能を再現する異能。 虎尾茶子によってゾンビたちは全滅したが、死霊術によって蘇生した魂によりその効果は持続される。 あの光の巨人がいる限り女王は無敵だ。 「………………うっ」 一瞬で距離が詰まった。 背後に迫る女王が、聖木刀を構える。 二刀は哉太に破壊され達人の技量は失われた。 だが、達人の技量はなくとも、アニカの足止めなど『神技一刀』だけで十分である。 完璧な動作で振り下ろされた一刀。 素人のアニカには避ける術などない。 「……!?」 だが、直撃を受ける寸前で、アニカの体が掻き消えた。 空ぶった手応えを確かめるように女王が手元を見つめる。 振り下ろした木刀には長い金の髪が巻き付いていた。 「位置替え…………金田一勝子の異能か」 村の部外者であったためか村の一致団結には加わらなかったようだ。 女王の招集に応じないどころか、謀反まで起こすとはとんだ裏切り者である。 「ペナルティだ」 そう言って、何かを握りつぶすように女王がギュッと拳を握った。 ■ 背後に迫る絶対の死は訪れず、走り続けるアニカの周囲の風景が変わった。 アニカは混乱しながらも足を止めずに走り続けた。 そんなアニカの周囲の風景が一度のみならず連続して変化してゆく。 その内にアニカは自身に何が起きたのかを理解する。 またしても勝子に助けられた。 風で流れた髪から髪へと行われる連続転移。 そのおかげで女王から逃れられ、かなり距離を稼げた。 その感謝を表すように手元に残った数本の遺髪を見つめる。 女王によって死霊術を解かれたのか。 髪に宿った魂の光は、もう夜に紛れて見えないほどに弱まっていた。 『オッホッホッホ!! どうやら私が手助けできるのはここまでのようですわ~!! 私の遺髪をツバサに届けて頂く約束に関してはお気になさらず。 強きを挫き弱きを助ける精神こそが貴族の本懐。それを怠るようではむしろ、ツバサに怒られてしまいますわ!! これもノブレス・オブリージュ! そう、ノブレス・オブリージュの精神ですわ~~!!! それではごきげんようアニカさん。ごめんあそばせ、オッホッホッホッホーーーっ!!』 幻聴と呼ぶにはあまりにもテンション感が高すぎる長セリフを残して、遺髪から完全に光が消えた。 アニカは光の消えた金の髪を握り絞め、心からの感謝を告げる。 「thank you...Ms.ショウコ」 彼女のお陰で願望機は手に入れる事は出来た。 残されたノルマは、御守りの回収だけだ。 御守りの場所は分かっている。 一刻も早く御守りを回収すべくアニカは病院の中庭を目指す。 幸運にも髪の流れた風向きから、既に診療所の近くまできている。 マラソンのラストスパートのように最後の力を振り絞り、アニカは中庭にまでたどり着いた。 「what's happening......?」 そこで行われていた光景にアニカが言葉を失う。 アニカが目撃したのは2つの首なし死体を前に争う仲間の姿だった。 「stop it now!!」 白兎をその場において、慌てた様子でアニカが間に入るように二人を静止する。 だが、割って入ったアニカに向かって赤い刃が迫った。 眉間を貫かんとする一刺しを、横から刃が弾く。 茶子の突きから哉太が守った。 哉太の中で、他のモノの価値がなくなったわけではない。 ただ、女王の守護が優先順位の最上位に上がっただけであり、基本思考は哉太のままだ。 女王のためなら何であれ犠牲にする事も厭わないというだけで、大切な物は大切なまま。 アニカを守るという誓いは哉太の中で生きている。 女王に命じられたのは女王の命を狙う茶子の排除だ。 アニカはまだ女王に敵対するとは限らない。 そんな甘い希望的観測によるものだが、女王である珠を殺しきれなかった哉太のそんな甘さがアニカを救った。 「―――――庇ったな」 地の底から響くような冷たい声。 尻もちをついたアニカの背筋が凍る。 自らに向けて降りぬかれた剣よりも、その表情にゾッとした。 アニカは茶子から距離を取るように離れながら立ち上がる。 そして、哉太と共に茶子に向かって対峙する。 「…………ついにsanityを失ったのね、Ms.チャコ」 「だぁほ。女王に支配されてんのは哉くんの方だよ」 呆れたようにそう言って、見下すような瞳を向ける。 その言葉に、ぎょっとした瞳でアニカが傍らの相棒を見つめた。 「違う。俺は茶子姉が女王を殺そうとするのを止めているだけだ」 「な?」 「………………」 そら見た事かと茶子が告げる。 女王を守護せんとする言動は、アニカの頭にも響く声に屈してしまったのか。 哉太自身は自らの言動がおかしいと言う自覚がなさそうである。 「って、Ms.チャコ! だったら何で私を攻撃したの?」 「戦闘中に割って入る方が悪い」 にべもなく言い切る。 愛する弟弟子と違って、アニカを殺すのにそもそも躊躇いはない。 間合いに入ったのなら攻撃の手を止める理由がなかった。 アニカは哉太からも僅かに距離を取った。 女王の眷属と化した以上、味方とは言えない。 かと言って自分を攻撃してきかねない茶子に近づく訳にもいかず奇妙な三角を作るような位置を取った。 「Ms.チャコはカナタをどうするつもりなの……?」 「さぁな。だが目的の前に立ちふさがるなら斬るしかねぇだろ。安心しろ、今の哉くんならそう簡単に死にゃしねぇよ」 「アニカも茶子姉を止めるのを手伝ってくれ! それともまさかアニカも女王に盾突くつもりじゃないだろうな?」 それぞれが言葉をぶつけ合い、事態が混沌としてきた。 本来味方であるべき3人だったはずなのに、誰が敵で誰が味方なのか分からない。 だが、更にそこに混沌の一駒が追加される。 「―――――おや、そろってるじゃないか」 アニカの背後より現れたその大駒こそが混沌の中心 悔しさに、あるいは殺意に、あるいは歓喜に満ちた声で現れたその名を呼ぶ。 「「「女王――――ッ!」」」 ここが戦場であるとは思えぬほど優雅な足取りで女王が姿を現す。 事実、絶対的な強者である女王にとって、ここは戦場ですらないのだろう。 自らの庭を歩く様に山折村を我が物顔で闊歩する。 勝子に与えられたアドバンテージは時間切れだ。アニカは女王に追いつかれた。 元より女王が正常感染者の位置を特定できる以上、時間の問題だっただろうが。 すぐに御守りを回収して願望機を使うつもりだった。 願いで女王をどうこうできるわけではないが、最期の願いを叶えて願望機が壊れてしまえば少なくとも女王の手に渡ることはなくなる。 そういう計算だったのだが、そこで哉太と茶子の諍いが行われているなど計算外である。 女王が満足そうな視線で3人を見つめる。 感知できる正常感染者は巨人の相手をしている天原創を覗けば、全員がここに揃っている。 その上、女王の求める願望機と御守りもまでもが揃っていた。 「では――――総取りと行こう」 言って、女王が魔力を放出した。 その背後に、鋭く尖った黒曜石の刃と、数時間前に戦鬼が破壊した診療所の瓦礫が浮かび上がる 魔法を弾く高魔力体質の対策として物理攻撃が入り交じった魔法と物理による混合攻撃。 自らの騎士たる哉太ごと、この場にいる全員を叩きつぶすつもりだろう。 哉太は多少の攻撃では死にはしないし、最悪死んだところで構わない。 魂を蘇生させ、『Zの世界』に至るだけだ。 「テメェを殺(と)ればよぉ――――ッッ!!」 だが、それよりも一手早く、茶子が動いていた。 機先を制して魔法が放たれるよりも先に女王へと襲い掛かる。 だが、振り下ろした赤い刃は、まるで読んでいたかのように展開された黒曜石の盾に防がれた。 女王は襲撃者に視線すらやらず口元だけで笑みを作る。 運命視によって茶子がそうすることなど女王にはわかっていた。 奇襲を防がれ茶子が舌を打った。 すぐさま身を引こうとするが、女王が手を振り下ろす方が早い。 それを合図に反撃の刃がガトリングのように一斉に放たれる。 「Ms.チャコ――――――!」 そこにアニカが投げ出すように身を割り込ませた。 自らの体を盾として、茶子に襲い掛かろうとした魔法の剣を霧散させる。 咄嗟の判断による利害の一致、互いが生き残るにはこれしかない。 その予想外の献身を忌々しげに歯噛みながら受け止め、茶子は同時に迫る瓦礫の射出を刃の先で後方へと受け流した。 物理を茶子が、魔法をアニカが防ぐことにより物魔の同時攻撃を凌ぐ。 「くぅ…………ッ!」 だがアニカの小さな体では完全に全てを防ぎきることはできず。 如何に茶子とて、細かな礫まで防ぎきることはできなかった。 致命傷こそないモノの、2人ともそれなりのダメージを負った。 その隙を突いて、女王の騎士が追いついた。 黒曜石の刃に貫かれて体中に穴を開け、射石による打撲と骨折を全身に受けながら、女王の危機に守護騎士は馳せ参じた。 完全に体が再生しきっていない体で、折り重なった2人の少女に向けて祖父の刀を振るう。 女王が現れアニカを攻撃した以上、もはや哉太にとってもアニカも討つべき敵である。 茶子は目の前に被さるようなアニカの背を蹴っ飛ばして離脱させると、打ち付けるようにその一撃を防ぐ。 「ち…………ッ」 だが、無理な体制ではその衝撃を殺しきれず、茶子は倒れそうになりながら後方へと下がる。 哉太がこれを追撃し、そのまま幾度目かの打ち合いを始めた。 蹴っ飛ばされたアニカはそのまま顔面から地面に倒れ込んでいだ。 鼻血を流しながら顔を上げたアニカに女王が迫る。 「貴様の悪運も終わりだな」 茶子の相手を哉太に任せ女王はアニカに標的を定めたようだ。 もはや死者の助けを得られるような奇跡は起きないだろう。 女王の相手はアニカがするしかない。 「死にたまえ、運命乖離者」 ■ 八柳流の攻防は初戦と同じく、哉太が一方的に攻め立てる展開になっていた。 茶子は手を出すことなく防御に徹していた。 だが、それは及び腰だった初戦とは違う。 何故ならその目は、強かに何かを狙っている狩人の眼をしていた。 哉太もそれには気づいている。 だからこそ、一方的に有利な展開でも警戒は怠らない。 目の前の相手の厄介さは誰よりも知っているのだから。 哉太は油断なく相手の出方を伺いながら、反撃の隙など与えぬように激しく剣を打ち付け続ける。 茶子はアニカに対する哉太の反応から相手の弱点を見出していた。 いや、見出したというより最初から知っていた事である。 だからこそ次の一手で、茶子はその弱点を突いた。 哉太の放つ渾身の一撃に対して。 茶子は、無造作にポイと刀を投げ捨てた。 「なっ…………!?」 完全なる無防備を晒した茶子に対する一瞬の戸惑い。 女王の洗脳状態にありながらアニカを庇った。 その行動(あまさ)から、茶子は哉太に隙が残っている事を理解した。 武器を捨て自らの隙を晒す背水の陣。 このまま切り捨てられてもおかしくはない。 だが眷属化しようともその性根の甘さは変わっていない。 剣士として対等な斬り合いに躊躇いはなくとも、無抵抗な相手、ましてや愛する姉弟子を斬ることを哉太は躊躇う。 最終的に斬るとしても、消しようのない一瞬の躊躇いが生まれる。 生まれたその一瞬の躊躇いを突いて、茶子が行ったのは頭突きだった。 頭蓋骨の一番固い所で鼻頭を打った。哉太の鼻骨が折れ鼻血が噴き出す。 一瞬で再生するとしても鼻血がなくなる訳ではない、鼻呼吸を封じられた。 どれほどの再生力を持とうとも顔面に強い痛みを感じた人間の反射として、眼を閉じ涙が滲む。 驚きと痛みで相手の動きが止まる。 その隙に茶子が刀を持った哉太の右手首を掴み、そのまま腕を自分の脇に引き込みながら飛びつくように体を預ける。 そしてまるでスローモーションのような動きで空中で脚を相手の首に絡めた。 右脚が相手の首を捕らえ、左脚は相手の右腕の下を通してしっかりと固定する。 戦国の世における武士の合戦であっても、刀が使えなくなった時に最後の手段となるのは体術である。 柔術の起源となる武士の組討のように、対剣術を想定した素手格闘の心得は八柳流にも存在する。 己の中の殺意と殺したくないという気持ちの折り合わせる、刀ではなく素手での殺し合い。 飛び付きから腕ひしぎに移行して、全体重をかけて地面に背で着地する。 その全ての勢いを極めた右腕に押し付けるようにして腕をへし折る。 強力な再生力を持つ哉太にとって腕の骨折など物の数ではない。 だが、一時的に握力の緩んだ手から刀が滑り落ち、夜の静寂に転がった。 そして哉太の折れた腕が捻られると同時に三角絞めの形が完成した。 頸動脈に強烈な圧力がかかり哉太は真っ赤にした顔面に血管を浮かび上がらせる。 だが茶子の握力は完全ではない、クラッチが効かない右手を引きはがさんと口端に泡を浮かべながら哉太が足掻く。 それを断ち切るように茶子は再生を始めた折れた腕を捻り上げる。 「ッッぅがああああああああああああ!!」 獣のような咆哮を上げて、折れた腕に構わず力を籠めて動かす。 女王の命令による強制力は自傷すら厭わない。 だが、正気の麻痺したゾンビたちと違って哉太には痛みが残っている。 それでもなお、激しい抵抗を続ける。 一撃で意識を奪い取った創の異能が恋しくなる程の恐るべき精神力と耐久度だ。 「チィ…………ッッ!」 茶子は痛みでの抑制を諦め、足での頸動脈の締め付けを強めた。 哉太の意識が僅かに白み、視界が次第に狭まって行く。 だが、意識を失う前に哉太は最後の力を振り絞った。 足元に力を込め折れた腕を引き上げ、まるで木の根を引き抜くかのように茶子の体ごと持ち上げる。 体が空中に浮かび三角締めによる締め付けが一時的に解かれる。 哉太は自らの腕にしがみつく茶子の体をそのまま地面に叩きつけんとした。 だが、茶子は即座に身を捻った。 叩きつけられるよりも早く振り子のように頭を振って、体重移動で相手の体勢を崩しにかかる。 折れた片腕では人一人を持ち上げるのが限界だったのか、哉太が倒れこみそのまま2人の体は揉み合うように地面を転がった。 転がりながらも茶子は哉太の手を完全に離さず、再び足で首を締め上げ三角締めの体勢に戻る。 哉太も再び抵抗を続けた。2人の剣士のグラウンド攻防は繰り返される。 ■ 「さあ、願望機を渡したまえ」 「……あら、渡したらmissしてくれるのかしら?」 手を差し出しながら女王がにじり寄る。 全身にかいた冷や汗を隠しながら願望機を持ったアニカがジリジリと後退った。 「まさか、運命の見えない障害は消しておかないと」 「だったら――――negotiationになってないわね!」 周囲に髪が舞った。 それを見た女王の思考に一瞬位置替えがよぎり、無意識に髪の行く末を目で追ってしまった。 だが、舞ったのは金ではなく銀。 放送局で回収され雪菜が後生大事に抱えていたスヴィアの髪だ。 雪菜の死体の近くに散らばっていた髪をテレキネシスでばらまいたのだ。 既に死霊術は解除され魂は消去されている。いずれにせよ位置替えは不可能なはずだ。 だが、先ほど一杯食わされた記憶がちらつき、一瞬の思考の隙は生み出せる。 その隙を突いてアニカはラグビーボールのように願望機を抱えて走り出す。 「おっと、どこに行こうというのかな?」 「ッッ!?」 だが、一瞬で目の前に回り込まれた。 速すぎる。根本的な運動能力が違いすぎる。 異能と魔力で強化された女王の脚力は人の域を遥かに超えていた。 女王が無造作に突き出した聖木刀がアニカの左肩を直撃する。 「っぅうあああああああああああああああああああッ!!!」 アニカが悲鳴を上げて地面を転げまわった。 左肩が脱臼した、その手に抱えていた願望機が零れ落ちる。 走っていた勢いもあってか、願望機は遠くまで転がって行った。 「やれやれ。手間をかけさせないで欲しいものだな」 面倒そうにつぶやくと、女王は倒れたアニカを無視して願望機を拾いに向かった。 左肩を外された激痛に、アニカは動くことが出来ない。 このままでは願望機が女王の手に渡る。 そうなってしまってはもはや取り返す術はない。 『……ニカ…………ッ!』 全てが霞む痛みの中で、遠くから声が聞こえる。 地面に這いつくばりながら視線を動かせば、そこには半透明の白兎が何か咥えて必死にこちらに向かって駆けている姿があった。 既に力の殆どが失われた白兎には持ち上げることすら叶わないのか、必死に地面を引き擦りながら何かを運んでいる。 『アニカ……この剣を!』 それは茶子が投げ捨てた魔聖剣だった。 茶子からすれば折れた剣でしかない価値のないもの。 だが、彼女たちにとっては今この状況を覆す唯一の手段だ。 アニカが手を伸ばす。 だが、距離は遠く届かない。 もはや白兎にはそこまで剣を運ぶ力がない。 「こ……………のっ!!」 足りない距離を異能で引き寄せる。 テレキネシスはアニカの筋力に比例する。 アニカの筋力では西洋剣を引き寄せるのに一苦労しただろうが。 刀身が折れて軽量化された魔聖剣はすぐさま引き寄せられ手元に収まる。 『その名を呼ぶんだ!』 白兎が叫ぶ。 聖剣より生まれた魔聖剣は失われた魔王の娘と同じ名を冠している。 そこに名探偵が推理した犯人を告げる。 祈り望むその先にあるもの。 すなわち。 「――――――――――デセオ!!!」 Deseo(デセオ)。 スペイン語において願い、願望。あるいは希望を意味する。 魔王に攫われた女神が産み落とした不貞の子。 絶望の中、産み落とした我が子に女神が授けた絶望の底の希望(デセオ)。 真名を解放された、その力が解放される。 折れた魔聖剣の刀身が魔力の光で覆われ一瞬で復元された。 「何だ…………?」 異変に気付き、願望機に手を伸ばしていた女王の手が止まる。 瞬時に振り返らねば不味い事が起きる、その予感に従いすぐさま振り返る。 するとそこに、白黒が入り混じった光と闇の螺旋があった。 『…………おお』 同じく白兎もその光景を見ていた。 その奇跡のような光景を見届けて、白兎が赤い双眸から涙をこぼす。 それは悲しみによるものではなく随喜の涙だ。 その名を聞き及んだ白兎の脳裏に摩耗した記憶が思い出される。 滂沱の涙をこぼす白兎の体が透明度を増して行った。 白兎の存在は己が願いに捧げられた。 気力だけで保っていたその存在が消えてゆく。 彼女たちならきっと成し遂げるだろう。後は願いを託すのみだ。 白黒の閃光に照らされながら、白兎が満足したように消えていった。 アニカは高魔力体質と言う異能を持っていたが、それは大量の水を持つ蛇口のない貯水タンクのようなものだ。 外に出す方法が分からず体内で巡らせ防御に使う事しかできなかった。 だが、その蛇口を手に入れた。 ――――デセオ。 その剣は魔と聖の二つの属性を合わせ持つ魔聖剣である。 魔聖剣に籠められた魔力とアニカの高魔力体質と言う二つの強力な魔力が合わさり二色の光となって放出される。 「――――――――はぁぁああああああっ!!」 アニカが振り下ろした刀身から白黒の極光が放たれた。 触れる物すべてを呑み込む魔力の奔流が女王の体を一瞬で飲み込む。 光の線が奔ったその過程の全てが消し飛ばされ、女王の手にしていた魔聖剣の父たる聖木刀は消し飛ばされる。 「ぅ…………くッ!?」 だが、二重魔力で身体能力が強化されていても片手では大量の魔力放出に耐え切れず、アニカが勢いに負けて後方に倒れこむ。 極光は上空に向かって逸れながら背後の診療所にまで達し、直撃を受けたその壁が跡形もなく消失する。 粉塵と瓦礫が空中に舞い上がり、辺りは視界が遮られるほどの煙に包まれた。 極光が消え、風に流れた煙が晴れる。 身を起こしたアニカが煙の晴れた先を見る。 そこにあったのは黒曜石の盾を構えた女王の姿だった。 魔力流は盾によりを防いだようだが、閃光の熱波までは防ぎきれず、女王の全身は赤く焼きただれていた。 だが、焼けた女王の皮膚が超速で再生を始める。 「……面白い。やるではないか」 再生を完了した女王は不敵に笑った。 ただの狩られるだけの兎だと思っていたアニカを、ここに来て初めて敵として認めた。 二重魔力と言う強力な力を目の当たりにしながら、女王の余裕は崩れない。 アニカの放つ白黒魔力砲は凄まじい火力だった。 アニカの体勢が崩れなければ女王とて無事では済まなかっただろう。 だが、その強力すぎる力をアニカはまだコントロールできていない。 先ほどの一撃だって茶子や哉太を巻き込まなかったのは奇跡だ。 仰向けに倒れて上空に逸れたからよかったものの、下手をすれば地面に転がる願望機すら消し飛ばしてしまった可能性もある。 それでもアニカには高魔力体質による防御もある。 生半可には攻略できない強敵となったことに変わりはない。 だが、それは『魔王』が扱う魔法の力に限った話だ。 女王にはまだ、『女王』が生み出した異能の力がある。 女王は先ほど茶子が放り投げ地面に落ちていた、聖刀神楽を拾い上げる。 生きたゾンビの異能を再現する日野光より受け継ぎし異能『村人よ我に捧げよ』。 村中全てのゾンビの魂は蘇っており、光の巨人として成立している。 対象を深く知る必要があるという条件設定も、魂で繋がる女王であれば簡単にクリア可能だ。 つまり理論上、あの光の巨人が健在である限り女王は1000を超える全ての異能を使用可能である。 「――――――では、見せてあげよう。細菌とこの村(せかい)を統べる女王の真の力を――――!」 神々しい光を背に、女王が両手を広げた。 新たな太陽たる、あの巨人こそ山折村の結晶。 外の世界にも新たな山折村を築き、細菌を進化させ魂の集合体たる光の柱を築き上げる。 生死を超えた果てにある『Zの世界』で、女王は真の支配者となるのだ。 全てを蹂躙する女王の真の力が開放される。 瞬間。 女王の背後で、太陽が弾けたような爆発が起こり、閃光が夜を白に染め上げた。 だが、 「なっ……んだ…………ッッ!!?」 驚愕の声は女王の口から洩れた物だった。 つまり、この異変は、女王が引き起こしたものではない。 女王が戸惑いの声を上げながら、狼狽した様子で己が背後を振り返った。 そこに在ったのは、ここからでも見える光の巨人が爆散する姿だった。 あっけにとられたように口を開いた女王の顔に滲む困惑と驚愕。 遠方の煙上げる上半身を失った光の巨人と目の前のアニカを交互に睨み付け、最後に遠くに転がる願望機を見つめた 確かめるように目を細める。 光の巨人が爆散したことにより、夜に闇が戻った。 夜の闇に紛れて願望機の位置はよく見えなかった。 それで理解する。 女王の扱う異能から『暗視』が消えていた。 それだけではない、魂の集合体である光の巨人が破壊された事により全ての異能が使えなくなっている。 それは、本当にあの絶対的な光の巨人が撃破されたことを意味していた。 だが、それはあり得ない事だ。 天原創に山折村の魂の集合体であるダイダラボッチを倒す手段はない。 それが女王の見た天原創の運命だった。 あり得ない、あってはならない事が起きた。 完璧なシナリオが崩れるのは許し難い。 何が起きたのか、確認せねばならない。 苦々しく表情を歪ませながら、目の前のアニカを視線だけで呪い殺せるほどの殺意を籠めて睨み付ける。 魔聖剣デセオの力を得たアニカは簡単に倒せる相手ではなくなった。 そんなアニカを相手にしながら願望機の回収ができるような余裕も現在の女王にはない。 『魔王』の力だけでは互いに決め手を欠く千日手になるだろう。 「…………預けておく」 捨て台詞のようにそう言って、女王は走り去っていった。 アニカもそれを追う事はしなかった。 デセオを手にして圧倒的な力を得たように見えるがアニカにもそれほど余裕はない。 その力を完全に制御できているとは言い難いし、肩の外れた左手はプランと垂れ下がっている。 まずはこれを治さねばならない。 脱臼の直し方は知識としては持っている。 まさか自分で実行する羽目になるとは思わなかったが。 「…………ふぅう」 息を吐き痛みで強張る体を出来る限り脱力させる。 脱臼した肩をゆっくりと体の前に持ってきて適切な位置を探った。 そして、もう片方の手で脱臼した腕の肘を軽く持ち上げ、強化された筋力で一気に腕を引く。 ゴキンという音と共に激痛が走り、アニカの顔が歪む。 凄まじい激痛だったが肩が元に戻る感覚はした。 肩の骨にヒビが入っていているのかまだ強い痛みはあるが、指を動かすことはできる。 このまま一休みしていたい気持ちがあるが、一息つく間もない。 アニカは先ほどの魔力砲で吹き飛ばされた願望機を回収すると哉太と茶子の援護に向かった。 剣士たちの戦いはいつの間にか寝技の戦いに持ち込まれていた。 アニカは格闘技に詳しいわけではないが、完全決まったはずの三角絞めが今にも引きはがされようとしているように見えた。 腕が折れようが頚動脈を絞められようが再生力と耐久力でごり押す、とんでもない力技だ。 「…………助けろ!」 「I know!」 援護要請にアニカは応じる。 だが、二重魔力による魔力砲は威力が高すぎる。 アニカもそれなりの修羅場は潜っているが直接戦闘、ましてや魔力を放つ剣など扱ったことがない。 アニカは完全にデセオの力をコントロールしきれていない。 出来ることは蛇口を捻って0か100の水を出すだけ。 下手をすれば茶子はおろか、再生力を持つ哉太すらも完全に消し飛ばしかねない。 アニカ自身の気質からして処理能力と精密動作に優れており、大雑把な大出力には向いてないのだ。 そういう意味ではデセオの高魔力砲とは相性がいいとは言えなかった。 だが、構わずアニカが魔聖剣デセオを両手で握り絞め、二重魔力を高めた。 アニカの力はデセオと高魔力体質だけではない。本来のアニカの異能はテレキネシスである。 大魔力の放出をコントロールできないのなら、コントロールできるようにチューニングすればいい。 アニカを扇の要にするように何重もの白と黒の細い光の線が空に奔った。 魔力戦以前に戦闘行為に不慣れなアニカでは蛇口から出る魔力量は調整できない ならば蛇口から出る量を調整できないのなら、1000の魔力を1×1000に分割して放出する。 1の魔力ならばテレキネシスで制御できる。 並列処理ならばアニカの領分だ。 アニカは放たれた千本の魔力を異能の力で一つ一つ精密に操作していく。 幾つかの束になった魔力光が触手のようにうねる。 触手は茶子ともつれ合う哉太の手足に巻き付いてその体を拘束した。 強い再生能力を持つ哉太は多少の拘束ではトカゲのように自切しかねない。 求められるのは生かさず殺さず全身を押さえ続ける術である。 その隙に茶子が引きはがされそうだった三角絞めを完全に解いて袈裟固めの体勢に移行する。 柔道の抑え込み技と魔力の束による手足の拘束。 2人の少女による女王の守護者を完全に抑え込んだ。 「離せ……ッ! 離せぇッ!」 だが、これを受けてもなお女王の守護者たる哉太は拘束を解くべく暴れまわる。 一瞬でも気を抜けば飛び出さんばかりの暴走ぶりである。 「……ッ。いつまでやってりゃいいんだ、これッ!?」 「この事件が終わるまでよ!」 ■ 草原から女王や茶子が去りし後。 村の意志の集合体たる光の巨人と、それに立ち向かう小さな人間の追いかけっこは続いていた。 親の交代もないタッチ一つで終わる最悪の死の鬼ごっこ。 少しでも足を緩めれば追いつかれる相手に常に全力疾走を強いられる。 それでもなお攻撃の余波は身を削り、繰り返すたび小さな人間は疲弊して行く。 逃げる創の神経も体力も限界に近い。 ここまでの激戦により積み重ねられた疲労を思えば、ここまで粘っただけでも驚異的だろう。 対して、巨人に衰えはない。 当然だろう。手を振り上げて落とすだけなのだ、大した疲れなどあるはずもなかった。 そもそも疲労などと言う概念があるかすらすら怪しい。 このまま追いかけっこを続けた所で、どうなるかは火を見るよりも明らかだ。 だが、これほどの絶望的な状況にありながら、創の目は死んではいなかった。 何故なら既に二つの希望の光は彼の手の中にあるからだ。 一つは茶子より返却された発信機だ。 何者かの存在を示すように光は点滅している。 これは目的のない疾走ではない、希望の光に向かって駆けだしていた。 そしてもう一つの光。 創は懐に手をやると、取り出した切り札のスイッチを押した。 次の瞬間、創の手元から光が剣のように鋭く伸びた。 巨人の放つ淡い光を切り裂くような強い光が一直線に巨人に向かって進んで行く。 そして、レーザービームのような白い光の先端が巨人の顔面に直撃した。 それは雪菜から回収した何の変哲もないマグライトだった。 マグライトの光を巨人の顔面にぶち当て、光を照らす。 だが、巨人はその光をまるで意に介さずそのまま進んでくる。 巨人に元より視力などない。 人間の魂の集合体である巨人は魂の元の形を再現しているだけである。 形だけが再現されているだけで五感は機能しておらず、目つぶしをしたところで意味はないのだ。 しかし、少年は怯むことなくマグライトを巨人に向けて照らし出した。 マグライトの光を剣のように振り回し、巨大な光の巨人に向かって何度も何度も振り下し続ける。 だが、光の剣は巨人に当たるたびに虚しく消え去り、何の効果もない。 少年の努力を嘲笑うかのように巨人はそのまま地ならしと共に突き進むと、祈るように両手を合わせた。 そして、合わせた両手を月にすら届きそうな勢いで上空へと振り上げる。 ダブルスレッジハンマー。 光の巨人の一撃は片腕でも地形を変えるほどの破壊力を持つ。 それが両手合わされば、どれほどの威力になるのか想像すらできない。 今回ばかりは回避したところで余波だけで小さな人間など容易く死ねるだろう。 逃げる事を諦めたのか、それとも疲労の限界か、創はその場に足を止める。 1秒後の死を前にしてもなお、創は夜空に絵を描くように光を振り回し続けた。 そんな無意味な行為を続ける少年に向かって、破壊神たる巨人から絶対の死が振り下ろされた。 だが、それよりも一瞬早く。 ――――――地平線の彼方から彗星が疾駆した。 遥か遠方の草原に閃光が走り、夜を切り裂くように天を目指して昇っていく。 それは遡るように地から天に向かって流れる願い星の如く。 彗星の尾を引く赤い炎が夜空を裂き、空気を震わす轟音と共に猛烈な勢いで光の巨人へと向かって突き進む。 彗星は瞬く間に草原を駆け抜け、巨人との距離を一瞬で縮めた。 閃光が巨人の胸部に命中する。 瞬間、世界が一変した。 筆舌に尽くしがたいほどの凄まじい衝撃が世界を揺るがす。 爆発音は地響きを伴い、村全体を揺るがせた。 音を超えて広がる衝撃波は周囲の草木を根こそぎ吹き飛ばしながら大地を捲り上げてゆく。 まるで大地震が発生したかのように地面は脈動し、灼熱を含んだ空気は舞い飛ぶ草木を蒸発するように燃やし尽くしていった。 そして、偽りの月の終わりを告げるように、太陽が爆発したかのような光が夜空を染め上げる。 爆炎は暗闇を一瞬で焼き払い、周囲を白昼のように照らした。 撃ち放たれたのは一撃にて、この世の終わりの様な破壊を齎す破壊兵器。 血塗られた兵器開発の歴史の果てに生まれた、歩兵が運用できる最強の兵器――ロケットランチャー。 兵器開発の歴史とは、人がより効率的に、最大的に人を殺すために積み重ねてきた業の歴史だ。 だが、その業が世界を救う事もある。 茶子は言っていた。 発信機の信号を追っている途中で女王と遭遇したと。 それが指し示す意味はひとつ。 茶子と女王を結ぶ直線上にハヤブサⅢの発信機を持つ人間、つまりはハヤブサⅢを殺した特殊部隊がいるという事だ。 女王を守護する光の巨人の存在は特殊部隊としても無視できないはずだ。 創は光点から狙撃可能な位置まで相手を誘導するとともに、マグライトによって観測手の役割を果たしていた。 伝えていたのは周囲の風向きと強さ、そしてその巨大さ故に遠近感が薄れてしまう巨人との正確な距離感である。 「くっ…………!?」 だが、大きな想定外が一つ。 その爆風は、巨人に挑んでいた少年にも容赦なく襲いかかった。 特殊部隊なら狙撃銃くらいの装備はあるだろうという想定の行動だったが、これは余りにも威力が高すぎる。 明らかに国際人道法に違反した破壊力である。 爆風と熱波に巻き込まれるだけで命を落としかねない。 創は匍匐体勢で目と口を守りながらなんとか爆風に堪えようとするが、あえなく小さな少年の体は吹き飛ばされ空中に舞い上がった。 暴力的な爆風に少年の身体は無力に翻弄され、地面に激しく叩きつけられた。 「っ……………ハッ………ッ!!」 もみくちゃにされながらもギリギリで受け身は取ったが、それでも衝撃で息が詰まり全身が痛みに包まれた。 熱風で全身の皮膚が火傷でもしたように赤くなり、喉の奥も僅かに焼けてしまったのか呼吸をするだけで小さく痛みが走る。 だが、それでも創は生きている。 爆風の影響が収まったのを確認して、痛みを堪えながら四つん這いの体勢で創は顔を上げた。 見上げた先、そこに在ったのは、上半身が弾け飛ぶように消滅したダイダラボッチの姿だった。 腰から下だけになった巨人は、炎煙を上げながらそのまま崩れ落ちるように倒れた。 大きな地鳴りと共に倒れた下半身が結合を失った光の粒子となって砕け散る。 そして、爆発によって天に打ち上げられた魂の破片が、無数の輝く粒子となって祝福の雨のように草原に降り注いだ。 白熱する光の残骸の一つ一つが星屑のように煌めきながら、降り注いだ大地の上で儚く光を放っていた。 その光の粒は焼き払われた草原の代わりに大地を覆い尽くし、幻想の世界を創り出した。 砕けた人間の魂で作られた星の草原。 それは、この世のものとは思えない、息を呑むほど美しい彼岸の景色だった。 「くっ………………ふぅ」 死後のような世界で眠ってしまいたい気もするが、全身が悲鳴を上がる体に鞭打ち、創は立ち上がる。 何故なら、まだ最後の戦いが待っている。 守護騎士は打倒した。 ならば、彼女はきっとここにやって来る。 待ち合わせでもするように、この美しく輝く草原でクラスメイトの少女を待った。 ■ 「マズ、大前提としてダネ。今回発生したのはバイオハザードではナイ。女王の意思をもって行われたテロ行為であるという点だヨ。 外部に漏れ出したのは我々の作り出したウイルスではなく、女王の先兵(ウイルス)だという事だネ」 山折村から離れた東京の研究所で、細菌学の権威たる老研究者は語り始めた。 女王が山折村から世界に向けて行ったのはバイオハザードではなく細菌テロである。 それだけ聞くと猶更まずい状況に聞こえるが、この場に居る彼らの理解は違う。 「つまりは、女王は事態を制御できるという事でしょう?」 それは奥津も考えた結論だ。 制御者がいるという事は、事態はアンコントローラブルではない。 それは捉えようによってはメリットである。 状況を制御できるのなら解決の算段も立てられる。 「ですが、女王がこちらの軍門に下ることなどありえないでしょう?」 根本的な問題はそこだ。 仮にも計画を仕掛けた敵の首魁がこちらに素直に従う訳がない。 実現不可能な方法は卓上の空論でしかなく解決策とは言えない。 ここにいる人間はそんな甘い絵空事を語るような連中ではないはずだが。 「ソウだろうネェ。ダガ重要なのハ、命令権限を持つ管理者がいるという事だヨ。コレは珍しいコトだよゥ……! 細菌の繁殖や共生に相互作用がアル事はあっても、明確な上下関係があるなんてのはこのワタシでも聞いたことがナイ! 何せ細菌には明確な意思がないからネ。細菌の動きは現象に伴う化学走性(ケモタキシス)でしかないのだから当然と言えル。 ダガ、『HEウイルス』はその前提を覆す『意思』を持つウイルスだっタ。絶対的な命令関係が存在スル!!」 ゾンビたちが女王を守護るのは細菌の化学走性によるものだと考えられていた。 だが、女王の覚醒が第二段階に至った事により明確な命令系統がある事が女王の口からはっきりと語られた。 これ自体が学会を揺るがすとんでもない大発見である。 「女王の宣戦布告を信じるのであれば、感染源である[A感染者]の指定に加えて、正常感染率の調整まで行えるようですね」 女王の宣戦布告には女王の指定、正常感染率の申告が含まれていた。 感染者の指定が行われた事に関しては他ならぬこの女研究員が証明だ。 ウイルスを発する女王になったかは見た目ではわからずとも、異能の消失と言う明確な変化がある。 「素晴らしイィじゃないカ! ソレはウイルスの発症を操作できる証明に他ならナイ! バラ撒かれたのは細菌が生み出した細菌と言う訳ダ。イヤァ、面白いナァ、実に興味深いヨ!!」 「いきなりテンションを上げるな百之助。流石の俺も引くぞ」 「そもそも、正常感染の確率は制御出来ないものなのでは?」 それが制御できるのなら山折村のゾンビは生まれていない。 何より、研究所の導き出した正常感染率は過去の動物実験から統計的に割り出したものだ。 それでも2~5%というブレがある。事前に言い当てられるものではない。 「イヤイヤ、ソレは昨日までの話サ。適合条件は先ほど判明しているヨ。 詰まる所、正常と異常の判定は細菌タチの選り好みであったワケだけド。 ウイルスと対話可能な女王であれば、正常感染率は制御できるはずだネェ」 「つまり、女王の宣言した1%は女王が明示的に設定した1%だという事ですか?」 「ふむ。そうなると一つ気になるところがあるな」 染木と奥津の話に終里が疑問を挟んだ。 「何故――――1%なのだ? 本気で共存を望み自らの有用性を示すのなら100。本気で人間に敵意を示しただの苗床にしたいのならば0。 それ以外になかろう。少なくとも俺なら0にする」 何故1%なのか。 女王が自分の意思で設定したのならそこには意図があるはずだ。 少なくともその設定値は終里の思想とは合わない。 この疑問に女王の姉妹たる長谷川が答える。 「山折村を再現したかったではないでしょうか。 言動から[HE-028-Z]は山折村を自分たちの進化と繁栄の場と捉えている節があるように見受けられます」 「より良い進化のために、より過酷な地獄を。と言うことか。 同じ環境を整えたところで同じ結果になるとは限らぬのだがな、かわいらしい発想ではないか」 その悪辣さが気に入ったのか終里は満足げに笑う。 細菌の未来のため、人間の地獄を作り上げる。 その思想はやはり人と相容れないものだ。 「ともあれ、正常感染率は奴の意図に沿った設定になっていると言うことだな」 「そのようですね」 感染者や感染率を制御できるのであれば、事態を収めることもできるだろう。 「女王が状況をコントロールできるのはわかった。だが、奥津くんの懸念する通りだ。 人間を自らの糧としか考えていない女王がこちらに従うことなどありえない。 どうすると言うのだ? 考えを言え百之助」 「言ったダロウ? 命令権限を持つ管理者がいる事こそが重要なのダト。 ソノ命令者は必ずしも女王である必要はナイ」 理屈としてはその通りだ。 だが、その制御権がこちらに渡らなければどうしようもない。 何かスイッチの様なものがあって無理やり奪い取ればいいと言う話でもないのだから。 疑問符を浮かべる3人に向かって染木は一つの問いを投げかける。 「考えてみたまエ。『HEウイルス』は何から生まれたものなのカ?」 その問いに、全員の視線が一点に集中する。 視線の集中を受けた男は楽しそうに不敵な笑みを浮かべた。 「――――――つまりは、俺か?」 「ソウ。理屈で言えば[HEウイルス]の大元である元くんは、女王よりも上位の命令権を持ってイルはずだヨ」 魂を確立した女王は魂を繋げ[HEウイルス]を支配する力を得た。 だが、その大元であり、元より人としての魂を持つ終里であればそれよりも大きな権限を持っていてもおかしくはない。 その方案を受けた奥津が口元に手をやり考え込む。 「つまり……女王の作ったネットワークにバックドアをしかけるという事ですか?」 奥津が自分なりの解釈をハッキングを行うための不正侵入口に例えて言う。 同じく研究者ではない終里はその例えになるほどと頷きを返した。 「なかなかいい例えだな奥津くん。 その例えで言うならば、本気で自身の死後を想定するのであれば完全にリンクを切ってスタンドアローンにすべきだったな」 娘の失態を楽しむようにくつくつと笑う。 だが、すぐさま笑みを消して奥津の顔が真顔に戻る。 「とは言え、やりかたなど分らんぞ。あいにく細菌と対話などしたことなどないのでな」 出来る出来ない以前に試そうと思った事すらない。 染木と違って残念ながら終里は普段から細菌と会話しようと思うほど酔狂ではない。 「やっていただく。できないとは言わせない」 強い圧を込めて奥津が終里を詰めるように言う。 珍しく終里もこれには僅かにむぅと言葉を呑む様子を見せた。 「ナァニ。バラまかれた全ての[HEウイルス]を完全に制御しろとまではいわないサ。 各地の女王ダケでも休眠状態にでもナルよう命じらればイイ。ヒトマズはそれで急場はしのゲル」 「そうですね。時間を気にしないのであれば後日改めてスヴィアさんの提示された処置を行えばよいかと」 0時のパニックさえ避けられれば、あとはどうとでもなるだろう。 時間制限を気にしないのであればスヴィアの提示した解決策が使える。 時間も設備も制限がなければどうとでもなる話である。 「そもそも。他の女王を制御できるのならば、山折村の女王そのものを制御すればよいのでは?」 これまでの話を聞いた奥津が一つの案を提示する。 より上位の権限を持つものが下位のウイルスを支配できるのであれば、大元である終里は女王も御せるはずだ。 それが実現可能であれば一発で全てが解決できる。 「ソレは難しいだろうネェ。今の『女王』は『魔王』の力を取り込んでいる。 アレは1/3とは言え元くんの根源だからネエ。恐らく現時点ではソレを取り込んでいる女王の方が権限が強いダロウ」 『女王』と『魔王』の2つの権限を併せ持つ女王は『大元』である終里より権限が強い可能性が高い。 可能性だけで言えばもしかしたら制御が出来るかもしれないが、下手に触ってこちらの意図に感づかれても不味い。 こちらの意図を悟られれば、対策を取られる可能性がある。 実行するのは、事を成せると確信を得られた時だ。 「そうなると、計画の実行に必要なのは――――」 「ああ、その通りだ。やることは変わらない」 事態は最初に掲げられた解決策に帰結する。 「話は最初に戻る訳だ――――――女王を殺せ、とな」 蓋となっている女王の排除。 自体の解決に必要な条件がそれだ。 「そちらの仕事だ、いかがかな隊長殿?」 先ほどの意趣返しのように終里が問う。 日が変わるまで1時間強。 それまでに事を成し遂げられるのか? 「――――問題ありません。現地の者が必ず成し遂げるでしょう」 ハッタリではなく世界を守護する組織の長として断言する。 48時間から大幅に時間制限は縮まったが、やることは変わらない。 彼らは秩序を守護する守護者。 世界を救うために成すべきことを必ず成し遂げるだろう。 「ソシて。女王の排除が完了した後は元くん次第というワケだネェ」 「わかっている。しかしだな。習得するにしてもどうしろと言うのだ?」 「ナァに。練習相手ならソコにいるじゃあないカ」 そういって染木がやせ細った指で差す先に居たのは、終里の血を引く娘の一人。 『巣喰うもの』が取り付いた対象である長谷川真琴だ。 女王の指定した新たな女王の一人である。 これ以上ない練習台だ。 「ですが、この場に居る長谷川博士のウイルスを制御できたとして、他のご子息たちの制御はどうするのですか?」 「問題ないサ。レポートにも書いているダロウ? ウイルスのつながりに距離は関係がナイ」 女王と子のつながりに距離は関係がない。 だからこそ、女王も世界各地にばら撒いたウイルスの命令権を維持できているのだ。 手法さえ確立できればこの応接室からでも全てを解決できる。 「ソウ言う事ダ。元くんも資金繰りばかりジャなく、タマには研究に貢献して貰わないとネェ。長谷川くんも頼んだヨ」 「了解しました。博士。ですが必要以上に近づかないでくださいね、終里所長」 「ふむ。年頃の娘にそう言われるのは意外とショックなものだな。しばし、別室で集中させてもらう。真琴も来い」 そう言って、観念したように終里が席を立つ。 長谷川も白衣を翻してそれに続いた。 「アッ。ソレ、ワタシも見学したいナァ…………!」 「お前は残れ百之助。研究者側も村の現状を確認する者が必要だろう」 「エェ…………そんナァ」 女王が死亡した場合、その影響を観測して事態を判断する人間が必要である。 それはウイルスの研究員にしかできない役割だ。 不満を漏らしながらも、納得したのか染木は席に腰を落ち着けた。 別室に向かう終里が、去り際奥津に向けて振り返る。 「では、互いに最善を尽くそうではないか。世界を救うために」 ■ 息を切らした少女が、草原に向かって走っていた。 それは待ち合わせに遅れた少女が慌てて駆けだしているようにも見える。 だが、彼女は人ではない、人を超えた存在である。 世界を救うために作られた[HEウイルス]の女王。 彼女は人間の脚力を超えた凄まじい速度で草原を駆け抜けていた。 その表情には焦りの色が滲んでいた。 駆け抜ける中で様々な懸念が頭の中でめぐる。 何故? 何が起きた? どうしてこうなっている? 女王は常に余裕を持ち悠然としていた。 運命視を持つ女王は未来に対する不安などなかったからだ。 運命は確定された物であり、運命乖離者という僅かなノイズを取り除けば未来は彼女の望むとおりになる。 そのはずだった。 なのに、こうして汗水を垂らして女王は走っている。 女王は逃げるアニカを追う時ですら余裕を持った歩行をしていた。 戦闘時に疾走することはあっても、必死で走るなど生まれて初めての事だ。 日野光の中で幾度もループを繰り返して来たが、女王としての明確な意思が生まれ肉の体を得てから数時間しかたっていないのだからそれも当然と言える。 淡い光が花のように咲き誇る、風にそよぐ幻想の海。 生と死が入り混じった現世と幽世の狭間。 少女が輝く草原に辿りつく。 「――――やぁ、女王」 どこか穏やかな声で少年が少女を出迎える。 つい先刻とは出迎える側と出迎えられる側が入れ替わり、草原の様子は様変わりしていた。 「何をした……………………何をしたんだ天原創!?」 周囲に散らばる魂の残骸。 山折村最後にして最強、最大たる守護者の名残。 僅かに乱れた息を整え手の甲で汗をぬぐう姿はただの少女のようである。 「当ててみろよ、運命が見えているんだろう?」 突き放すような言葉に女王は押し黙った。 天原創は光の巨人に成す術なく殺される。 それが『運命』だったはずだ。 だが、起きた結果はまるで違う。 無敵であるはずの光の巨人は爆散して倒れ。 天原創はこうして女王の前に立っている。 まさか、創も運命乖離者だとでもいうのだろうか? 「どうした? 運命の女神様。いや、女王様だったか? この結果がそんなに意外だったか? これまで予想外はなかったのか? ここまで追い詰められている今は――――お前の予定通りなのか?」 その言葉の通り、運命視の結果は所々で外れている。 せっかく獲得した『幼神』の力を奪われ、願望機を奪われ、飛行も出来なくなった。 全ての運命が見えているというのならそんなことにはならない。 それは女王も認める。 「確かに予想外もあった。だがそれは、白兎どもの小賢しい妨害があったからだ」 その原因は因果を操る獣どもの暗躍に他ならない。 そこに運命の見えない相手の介入が加わり、運命を乱された結果だろう。 「―――――本当にそうか?」 その結論に少年は疑問を呈する。 その言葉の意味が理解できず、女王が不思議そうに首をかしげる。 運命が乱れた原因などそれ以外に考えられるはずもない。 「……どう言う意味かな?」 「運命視。日野さんの異能を知った時から、僕にはずっと疑問があった。『運命』なんてものが本当に存在するのか」 創の抱えていた疑問。 創はアニカと白兎が運命の開放を謡ったあの時に、口にできなかった言葉を口にする。 「僕は信じちゃいないんだ。都合のいい『神様』も『運命』なんてものも」 創は運命なんて信じちゃいない。 だが、それは創個人の考えである。 創が『運命』を信じていからと言って、それを前提とした別筋の解決策を止める理由にはならないと思い、あの時は言葉を飲んだ。 「未来はいつだって白紙だ。不確定だからこそ自由なんだ。自由だからこそ無敵なんだ。 白紙の未来をより良いものにするために、人間は頑張り続けることができるんだ。 僕の未来は、僕自身の手で切り開いてきた、幸も不幸も僕のものだ。 誰かの手を借りる事だって確かにあった、けれどそれは神様なんてものに決められた訳じゃないし、運命なんてものに縛られた訳じゃない。 未来は人の善意と努力、強い意志で作り上げていくものなんだ。 最初から決まってる『運命』なんてものを、僕は否定する」 未来を決めるのは何時だって自分自身の決断だ。 自ら未来を選び取ってエージェントになった。 だからこそ創はここにいる。 未来が運命なんてもので決まっているなどまっぴらごめんだ。 青い主張を女王はふん、と鼻で笑い飛ばす。 そんな言葉は運命を知らぬものの戯言である。運命は確固として存在する。 自らの手で選び取ったと思っている事こそが勘違いだ。 人は運命に縛られ、それを超える事など選ばれた一部の人間にしかできない。 「君個人の信条は勝手にすればいいさ。だが私には『運命』が観えている。これは如何ともしがたい事実だ」 女王の目に見える『運命』。 これこそが『運命』の存在証明だ。 だが、女王の言葉を創は一言に切り捨てる。 「確かに、お前に『何か』が見えているのは事実なんだろう。それは否定しない。 だが、お前に見えている物は――――――本当に『運命』か?」 創は女王に指先を突きつけ。 爆弾を放り込むように、疑問を投げかける。 「当然だ。『運命』に決まっているだろう?」 「逆に聞くが、それが『運命』だと誰が決めた?」 「下らない言葉遊びだな。私の見えている物が『運命』でなければなんだと言うのか?」 女王が見えている物を別の何かに言い換えたところで何が変わる訳でもない。 多くの者たちは女王の――遡れば元となった珠の――見た『運命』通りの結末を迎えてきた。 「女王。お前はループしていると聞いた」 「その通りだ。誰から聞いたか知らないがよく知っているね」 唐突な話の転換のように思えたが、創は続ける。 何気ない当たり前の結論を告げるように。 「僕が思うに、それがお前の見ている『運命』の正体だ」 「―――――――」 日野珠の持つ異能の根幹にあるのは、姉である日野光が157回のループで蓄積した膨大な情報集積だ。 日野光と共に157回のループを超えてきた女王ウイルスはその知識を共有しており、今回の女王である日野珠にその集積情報は引き継がれていた。 日野光の記憶を引き継いだ幼神は、この知識を生かすことが出来なかった。 それは余りにも膨大すぎる情報を瞬時にかつ適切に処理しきれなかったからである。 ループにより得た知識は山折村VHの攻略本のようなものだ。 その蓄積された知識から、どこで何が起きるかと言う未来のイベントマップと、膨大な個人情報からの行動予測を自動で解析を行い、結果を光として可視化する異能。 それが創の考える日野珠の持つ『運命視』の正体だ。 「100回以上もループすれば偶発的な出来事だろうとどこで何が起きるかなどおおよそ把握できるだろうし、特定の状況で誰がどんな行動をするかも分析ができる。 だから、お前が見えないのは単純に、経験したループの中で一度も経験していなかった事だ」 特定の状況で人間は能力やパーソナリティに応じた行動をとるだろう。それが極限状況であればなおのことだ。 予測を裏切る限界を超えた活躍を見せる人間だって、パラメータで見ているのなら予測は不可能だろうが、ループで見ているのならそれすらもデータとして認識できる。 何度も繰り返された時間の流れの中で、偶然とされる出来事の裏にある微細なパターンや兆候だって見つけることができる。 1度だって目撃していれば偶然と見なされる出来事もまた、予測可能な未来の一部となる。 『運命』が外れるのは、ループの中で一度も起きなかった出来事が含まれていたから。 神楽春姫が運命予測から逃れていたのは、それでもなお予測不可能な突飛な行動をとる女だから。 アニカが運命予測から逃れられたのは光が収集したデータベースに存在しない高魔力体質を得たアニカと言う未知の値が入力されたから。 「下らない妄言だ。全てはお前の希望的観測だろう」 全ては創の予想に過ぎず、この場で事実であるかの証明できない。 だが、強気な言葉とは裏腹に、この瞬間。確実に女王の運命視への信頼が僅かに揺らいだ。 揺らいだ信頼を否定するように女王は首を振る。 「仮にそれが事実だとしてどうだというのだ? お前の『運命』は見えている」 天原創と言う人物が、この状況でどう行動するか。 その運命(よそく)は見えている。 運命の正体が何であれ、女王の有利は変わらない。 「言ったはずだ、それはただの高度な行動予測に過ぎない。タネは割れた。もはや無意味だ」 「ほざけ―――――ッ!」 残された女王の武器は先ほど拾い上げた聖刀のみ。 挑発に乗って明らかに冷静さを欠いた女王が刃を振り合上げ創に襲い掛かる。 その出鼻を挫く様に創がルガーの銃口を向けた。 引き金が引かれ、一発の弾丸が放たれる。 前がかりになった女王には避けられない。 だが、女王にとってそれは脅威ではない。 創が足止めの為に銃を撃つ『運命』は観えている。 魔力によって強化された女王の皮膚は対物ライフルすら弾く。 44マグナム弾が直撃した所で大した傷など付かないだろう。 女王にとっての脅威は右手だけだ。 しかし、油断はしない。 魔王に呪詛を撃ち込んだような”仕込み”がないとも限らない。 そう言った紛れを確実に防ぐべく、黒曜石の盾を展開する。 一瞬で展開された盾は三つ。 三重に重ねられた黒曜石の盾は戦車砲すら防ぐ強度を持っている。 どれほどの大口径であろうと弾丸など物の数ではない。 「――――――――な」 しかし、驚愕は刹那。 黒曜石の盾に触れた弾丸は盾をいとも容易く貫いた。 否。黒曜石の盾は貫かれたのでも砕かれたのでもない。 まるで、無効化されるように消え去ったのだ。 弾丸は一切の減速なく突き進むと、女王に直撃した。 魔力で強化された皮膚すらも突き破り、その腹部を貫く。 「ごふっ…………!! ハ、バカな…………ッ!! まさか、こ、これは……ッ!!??」 風に流れ、創の右手に巻かれた包帯がほどけてゆく。 包帯の効果により既に血は止まっているが、露になった右手からは、小指の先が欠けていた。 「――――――この手は読めたか? 女王」 これが創の用意した対女王の準備だ。 弾頭として打ち出されたのは、切り落した天原創の指先だった。 雪菜のマチェットで自らの小指を斬り落として、それを弾丸の先端に加工した。 小指の第一関節から先とは言え、創の右手の一部である。 放たれたのは魔王の力を食い破る『魔王殺し』の弾丸だ。 異能とは、本人の人生が色濃く反映されるものである。 魔王によって人生を奪われた少年がその右手に宿した異能の本質は、魔王から派生した力を殺す『魔王殺し』。 『魔王』を否定するための異能。天原創に、魔王由来の能力は一切通用しない。 『魔王殺し』の弾丸は黒曜石の盾を無効化し、魔力の膜を突破した。 皮肉にもこの『運命』を乱したのは女王自身の存在である。 全てのループによって女王がこうして意志を持って顕現するのは初めての事だ。 157回のループにおいて女王に対するデータはどこにも存在しない。 すなわち女王に対する対策(アクション)は全て運命(よそく)の外になる。 「ぐっ………オオッッ! …………消、えるッッ! 消えていくッ!?」 腹部を抑えて女王がもがき苦しむ。 障壁ごと魔力による身体強化を打ち破った弾丸は女王の体内に深く食い込んでいた。 体内にとどまった弾丸――創の小指が、女王の内にある『魔王』の力に作用していく。 『魔王殺し』という毒が全身に巡り、『魔王』の力を消滅させてゆく。 急速に力が失われていく。 だが、その猛毒の効果はそれだけに留まらない。 [HEウイルス]は『魔王』の力によって完成した『不死の怪物』より生まれしモノ。 [HEウイルス]は由来を辿れば『魔王』へと辿りつく。 すなわち、細菌の女王すらも無力化する特効薬である。 「ぐぅあああああああああッッッッッ!!!?」 悲鳴のような絶叫を上げ、女王が自らの腹部を抉りだした。 最後に残った魔力で爪を尖らせ、弾丸を体外へと摘出したのだ。 「くぅッ…………ハァ……ハァ!!」 摘出された血に濡れた弾丸が、輝く草原に落ちる。 白く輝く花が赤に染まった。 無効化と言う毒が脳に達するまでに、なんとか切除できた。 だが、既に『魔王』の力の大半が失われ、女王は魔力すらも使えなくなってしまった。 創は首元に活性アンプルを撃ち込む。 最後の活性アンプルはここまで温存していた。 巨人との戦いは体力と戦略の勝負であり、反応速度はそれほど必要ない戦いだった。 何より女王戦を控えた状況で、副作用のあるアンプルを使う訳にはいかなかった。 創の投げ捨てた空になった瓶が地面に落ちて、転がりながら光を返した。 しかし、少年と少女は地面に転がるそんな光を見向きもせず、睨み合うように視線を交わす。 強い風が吹き抜ける。 草原に降り積もった光が浮き上がり空に舞った。 見つめ合う二人の間を、淡い光の粒が流れる。 「…………私たちはただ生きたいだけだ。共存を望んでいる」 「その言葉は誰も傷つける前に言うべきだった」 少年が一歩進む。 女王は無意志にわずかに後退した。 その一歩に何より驚いたのは女王自身だ。 故にこそ、女王としての意地がその場に足を踏みとどまらせた。 「しかたないじゃないか、私たちは殺されそうになったのだよ? 人間様のために細菌は黙って殺されろとでも言うつもりなのかな?」 「だとしても、共存を望むのなら君が返すべきは悪意ではなく誠意であるべきだった」 殺されそうだったから殺し返した。 それが当然の反応だとしても、敵意を向けるのであれば戦うしかなくなる。 どれだけ理不尽であろうとも、そうなっては共存の道はない。 「傲慢だな。君たち人間に都合のいいように手のひらを差し出せと?」 「ああ。僕たちは傲慢で、そして臆病なんだ。お前の様に笑って人を傷つけるような輩と共存などできない」 女王は多くの人を傷つけてきた。 楽しむように笑いながら。 そんな相手と手を取り合える未来はない。 あるのは隷属と支配だけだろう。 「何を言う。笑って人を傷つける? それは君たち人間の事だろう」 「そういう人間が居るのは確かだ。だからみんな、少しでもましであろうと必死で足掻いている。 少なくとも圭介さんも哉太さんも、君を殺そうとはしていなかったはずだ」 あの二人は宿主である珠を気にかけていた。 最後まで命を奪おうとせず解決策を模索していた。 その善意を踏みにじったのは誰だったのか。 「ああ、だから殺すことなく八柳哉太は私の忠実なる騎士にしてやったんじゃないか」 「相手の意思を捻じ曲げて、愛する人と殺し合わせてか?」 「そうだ。これ以上ない共存だろう?」 「話にならない」 精神があるだけで育っていない。 身勝手で他人を顧みれない。 自分の事しか考えられない子供の主張だ。 「悪いが、僕は生まれたばかりのガキの我侭に付き合っていられるほど寛容(おとな)じゃないんだ」 最後まで珠を救おうとした圭介や哉太とは違う。 高校生とは違う中学生だ、大人になんてなれない。 「だから、お前を殺すぞ、女王―――――!」 意見が衝突して、相容れないなら戦争しかない 『助けたい』と『助けられる』。その線引きを見誤らない。 ここから先は、正真正銘の殺し合いだ。 創が地面を蹴りぬく、地面と共に足元の光が散った。 強化された創の異能は右手に触れる空気中のウイルスにすら反応して青白い光を放つ。 それは天を流れる流星に負けぬ。さながら地を駆ける蒼い流星。 最強のエージェントブルーバードの弟子が、光り輝く草原を駆け抜ける。 対するは少女の姿を象った女王[HE-028-Z]。 『魔王』の力が失われてようとも、細菌と魂を統べる『女王』の力は残っている。 咲き誇るように輝く周囲の光は、その全てがこの村で散った魂の残骸だ。 その中には、同胞たる[HEウイルス]たちの魂も含まれている。 全てを失った女王の最後の助けとなるのは、流行り同族たるウイルスたちだった。 周囲の光がまとわりつくように一斉に創へと襲い掛かった。 「無駄だ…………ッ!!」 だがそれを、右手を一振りして振り払う。 その動作は無造作のように見えて、まるで無駄がない。 アンプルによって活性化された動体視力が自らに降り注ぐものを的確に見極め、必要最低限の動きで撃ち落した。 人間の魂ならいざ知らず、魔王を由来とする[HEウイルス]の魂であれば創の右手で無力化できる。 しかし、右手一本で全身を襲う魂の残骸を振り払ったのだ。 走る体勢が崩れ、僅かに隙が生まれる。 その一瞬を勝機と見た女王が踏み込み、聖刀神楽を振り上げる。 女王にはもはや異能の助けはない、ただ力任せに振り下ろす。 聖刀の切れ味であれば、少女の力であっても相手の頭を真っ二つに裂けるだろう。 だが、女王が振り下ろすよりも早く、手首に強い衝撃があった。 「っ………………!?」 振り上げた聖刀の赤い刀身がどこかから放たれた弾丸により弾かれた。 反射的に衝撃の先に眼球が動き、女王の視線が移る。 そこには、銃を構える迷彩服の姿があった。 「ッッ…………特殊部隊ぃぃいいい!!!!!」 憎悪を込めた怨嗟の声。 それは、この村において唯一ウイルスに侵されていない潔白な存在。 女王が認識出ていないことすら認識できない本当の透明な男である。 女王斬首の命を帯び、驚異的な練度を誇る特殊部隊は村人たちにとって最大の脅威であった。 だが、この瞬間だけは違う。 彼らが真に世界の守護を任とする護国の守護者であるのなら。 女王を排除するという一点において、特殊部隊は最強の味方足りえる。 それが達人の動きであれば成田の様な名手でなければ捉えられなかっただろう。 だが、ただの大振りでしかない素人の棒振りなど、天でも十分に捉えられる。 厄を操る『幼神』の力は白兎によって奪われ。 同時に取り出された願いを叶える『願望機』はアニカに回収された。 彼女を守護する『ゾンビ』たちは茶子によって全滅させられ。 魂の集合体たる光の巨人は特殊部隊に撃破され『異能』は使えなくなった。 武器となる『二刀』を八柳哉太に、『一刀』をアニカとデセオに破壊された。 『運命視』すらも否定され、最後に残った『魔王』の力も天原創が消滅させた。 『聖刀』による最後の一撃すらも特殊部隊に防がれた。 「終わりだ――――――女王ッ!」 叫びと共に駆け抜ける。 もはや、女王を守護する物は何もない。 多くの人々の決死が、結実した今。 天原創の右腕が女王に――――届いた。 「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおッ!!」 「ぐぅううううううあああああああああああああああああッ!!!」 二つの咆哮が夜の静寂に木霊する。 創は女王の顔面を掴んだまま止まることなく駆け抜ける。 小さな珠の体は光る草原を引きずられるように地面を這う。 足でブレーキをかけようとするが、異能も魔力もないただの少女の筋力では抗うことはできず、ただその道筋に光の胞子が浮き上がって行く。 壮絶な殺し合いとは思えぬ美しい光の線が浮かぶ。 「ぐぅぅううああああああぁぁぁっ! やめろやめろやめろやめろ、止めろッ! 手を放せぇっ!!? 定着したウイルス(わたしたち)は宿主の生命活動にまで影響を及ぼす!!! 分るか!? 私を排除すれば、宿主であるこの娘も死ぬぞ!?」 頭部を掴まれながら必死の形相で女王が叫ぶ。 定着した[HEウイルス]を除去すれば宿主は死ぬ。 女王を排除せんとする天敵に、その残酷な真実を明かす。 「嘘じゃない……ッッ! 本当だ…………ッ! あのスヴィアも定着していたッ、分かるか……!? スヴィアを殺したのはお前だッ! 天原創ッッ!!!」 恩師を殺したのはお前だと、精神的動揺を誘う言葉を叩きつける。 だが、女王の頭部を掴む力は緩むどころか、さらに強まった。 「そうか――――――それを聞いて安心した」 握りつぶさんばかりの手の力とは対照的な、落ち着き払ったどこまでも冷めた声が聞こえた。 女王の全身に痺れるような寒気が奔った。 「つまり、この右手は――――お前を殺せるという事だな?」 その確信を得る。 女王の言葉は、他ならぬ女王自身の死を証明した。 「――――――――――――ひ」 女王の全身に味わったことのない初めての感覚が広がってゆく。 胸の奥底にある黒い淀みが全身に広がっていくような気持ち悪さ。 逃れられない何かが迫ってくるような、縋る物のない上空から落下していくような感覚。 曖昧な霧のように広がる不安感が、徐々に明確な形を取り始めた。 そうして、女王はあの時自らの足を引かせた正体を知る。 それは恐怖だった。 生まれたばかりの命である女王に、初めて芽生えた明確な「死」の恐怖である。 微生物である女王にとって、死の概念は恐れるべきものではなかった。 自らの死など恐れてはいないからこそ、種の繁栄のため自らの死の先に続く策を講じたのだ。 だが、女王は自我と魂を得た。 この山折村で絶対的な力を思う存分振るって”気持ちよく”生を謳歌した。 魂が確立されたことにより生まれた生の執着と死の恐怖。 あるいはそれは独眼熊の野生に恐怖を覚えた『イヌヤマイノリ』のように。 野生に恐怖した巣食うものの末路に似た――――自らを殺す天敵への恐怖。 「や、やめ――――――――」 「――――――終ぁりだぁぁぁぁぁぁああああああッッッッ!!!!!」 草原を駆け抜けた創の腕が振り抜かれる。 右手の中で抵抗する力が弱まり、やがて力なく垂れ下がった。 「…………………」 魂の光が宙に浮かび上がってゆく。 完全に生命活動が静止したことを確認して、創はゆっくりと指を剥がす。 宿主の命と結びついたウイルスの活動が停止する。 それは同時に、その宿主となった少女の終わりを意味していた。 その体を、そっと魂の光る草原に寝かせる。 女王は死んだ。 創が殺した。 女王を廻る騒動はこれにて終決である。 一人の少女の犠牲を持って。 【[HE-028-Z] 消滅】 ■ 「………………ここは、どこだ?」 気づけば、[HE-028-Z]は見覚えのない闇の中にいた。 周囲は夜闇とは違う黒い靄の様なもので包まれており、足元には汚泥の様な塊が生き物のように脈動していた。 どこからともなく伸びてくる幾つもの真っ黒い赤子の手が恨みがましい様子で蠢いている。 一時的とはいえ、厄を操る幼神の力を取り込んでいたからだろう、彼女にはすぐに理解できた。 ここは山折村の災厄が集まる厄溜まり。怨念と共に死して災厄となった魂の堕ちる場所だ。 一つの生命となって山折村に生れ落ちた[HE-028-Z]もまた、この災厄の渦たる厄溜まりへと堕ちていた。 だが、ここに墜ちた魂は厄溜まりに飲み込まれて周囲に漂う厄の一つになるはずだ。 如何に女王とは言え、今となってはただの墜ちた厄の一つに過ぎない。 こうして一つの個として意識を保っているのはどういうことか? 黒い手は恐れをなしたように女王から遠ざかっていた。 それは女王を恐れての事ではなく、女王の握る赤い刃――聖刀神楽を恐れているようだった。 死の寸前、最期に手にしていたからだろう、死後の世界に持ち込んでしまったようだ。 試しに刃を振るうと、目の前の黒靄が晴れる。 どうやらこの聖刀には厄を払う力があるようだ。 厄の溜まりに厄を断つ聖刀が持ち込まれてしまった、元となった神楽と同じくとんだ常識破りである。 女王は赤い刃で黒靄を切り裂きながら進んで行く。 それはまるでヤンチャな田舎の子供が鉈で藪を切り開きながら山中を歩いているかのようだ。 やがて霧中を進む女王の耳に、川が流れるような微かな水音が聞こえてきた。 だが、それはおかしい。 ここが本当に山中であるならともかく、この厄溜まりにそんなものがあるはずがない。 訝しみながらも音に向かって歩を進め、やがて彼女の前に川が広がった。 川は静かで穏やかに流れている。 川岸には枯れた草木がまばらに生えており、その上には黒靄とは違う薄い霜がかかっている。 水面には霧が立ち込め、ぼんやりとしか見えない川の対岸には淡く揺らめく影が立っていた。 女王はその川が何であるかを悟った。 これは常世と幽世を隔てる三途の川だ。 川の向こう側とこちら側は生死の狭間である。 つまり、川の向こうに立つ者たちは、すでに命を終えた彼岸へと旅立った者たちだった。 「貴様らは…………」 彼岸の先。 生死を分かつ川の向こう岸に神主服の男と巫女服の女が番のように仲睦まじく共に手を取りながら立っていた。 『どうしも気になってしまってね』 『ええ。私たちの村の事ですもの』 村の始祖たる陰陽師、神楽春陽。 村の絶対禁忌たる災厄、隠山祈。 あの世へと旅立ったはずの2人が、三途の川の畔まで来ていた。 絶望の詰まった災厄の奥底で、希望にも満たない亡霊に出会う。 これは現世に何の影響も与えない、何の意味もない出会い。 『そなたがわが村で猛威を振るった「ういるす」の首魁か』 「そうだ。それがどうした? 恨み言でも言うつもりか?」 祈に至っては直接殺しあった仲である。 恨みごとの一つや二つあるだろう。 だが、2人の人影はそうではないと首を振る。 『確かに、そなたは我らの村を滅ぼす原因となった』 『そうですね。あの村であなたと私は命の奪い合いをしまいた』 『だが、我らはそなたの罪を赦そう』 恨みがない訳ではない。 許せぬ理不尽もある。 だが、それでも赦しは与えられる。 「下だらん」 女王はその赦しを一笑に付す。 「赦しだと? そんなモノ貴様に与えられるまでもない。 我らはただ生きようとしただけだ。生きたいと願う事は罪なのか?」 人間と細菌の種としての尊厳と生存をかけた戦いだった。 それが罪だというのなら、こうして生を謳歌する人間こそが最大の罪ではないのか? 『その通りだ。だから、我らの罪を赦してほしい』 『共に祈りを捧げましょう。互いの罪が許されるまで』 「…………………」 一方的な罪ではなく、一方的な赦しではない。 互いに罪があり、必要なのは赦し合うこと。 己が為だけではなく、互いのために祈る。 祈りとは自身のためではなく他者のために行われることなのだから。 それがきっと本当に必要な事だったのだと、彼らはそう言っていた。 「…………やはり、下らないな」 そう呟くように彼岸から背を向ける。 背後には厄の手が蠢いていた。 聖刀を恐れて近づけないでいるようだが、光に群がる虫のように黒靄たちは濃くなっている。 いつその躊躇いを打ち破ってこちらに来てもおかしくはない。 『その刀、渡して貰えるだろうか』 彼岸の先にいる春陽がそう言ってきた。 厄からの守りとなる聖刀。 それを渡せと言うのは、夜の山を裸で歩けと言っているのに等しい。 だが、女王は赤い聖刀、背後の黒い厄、白い番を順番に見つめ。 どうでもいいと言った風にため息をつくと。 川越しに、対岸の春陽に聖刀を手渡した。 『ありがとう』 一つ礼を言って、春陽は受け取った聖刀の深紅の刀身をまじまじと見つめた。 『あぁ。見事だ春姫』 『ええ。あの娘は、素晴らしい神楽でしたよ』 神楽春姫の命によって生まれた、厄を払う聖刀。 歴代最高の神楽という白兎評も頷ける、素晴らしい出来だ。 誇らしげにその赤い刃を見つめると春陽は二つ立てた指先で五芒星を描いた。 最後に指先を突きつけられた聖刀が赤い光を放ち、厄溜まりの暗闇に光を灯した。 『これでしばしの間、厄どもは手出しできない』 彼らの娘によって正しき終わりがもたらされればこの厄溜まりは解体されるだろう。 これは、それまでの地獄に落ちるまでの泡沫の夢だ。 『さぁ。共にここで山折の終わりを見守りましょう』 ■ 淡く輝く光の花が墓標のように咲き誇る。 風に揺れる光の海の中心に、息絶えた一人の少女が横たわる。 少年はそこに広がる己の行いの結果を受け止めていた。 戦いは終り、世界は救われた。 一人の少女を犠牲にして。 全てを救えればいいと思う。 けれど、現実は冷たく胸を抉るほどに非情だ。 少年の手は小さく全てを掴み取ることは出来ない。 創にできるのはこの右手でつかみ取る手を選ぶことだけだ。 恩師の命も奪い取り、彼女の手を取ることなくその命を終わらせた右手。 この手は無辜の人々を守護るために、愛する者の命を奪い続けてきた。 その決断に後悔はない。 運命などではなく、創が選び、創が行ってきた決断の結果だ。 だけど、この一時だけは、死者の安息を願う祈りを許してほしい。 目の前の彼女だけではない。 ここまでの道のりで犠牲になった多くの死者たちに。 安寧を望み、手を合わせ祈る。 だが、そんな死者への祈りを捧げる創の視界の端に、光の粒子が散った。 背後から草原を踏みしめる足音が響く。 その粒子の流れを追うように振り返ると、その視界に小さな人影が写った。 「ッ」 創が瞬時に立ち上がり身構える。 女王という最後の敵を倒したことに油断して周囲の警戒を怠っていた。 ここまで相手の近接を許したのはエージェント失格である。 だが、現れたモノの姿を見て固まったように創が動きを止め、その眼が驚きに見開かれた。 「……………………スヴィア先生」 創の右手が殺してしまった恩師。その成れの果て。 かつてスヴィアだった物から生まれた新たな怪異。 怪異は、死に彩られた輝く草原を幽鬼のような足取りで進んで行く。 「…………救わ、ねば」 緩慢な動き。 今の創ならそれを制圧するのは簡単だ。 だが、創は動けなかった。 いや、動かなかったという方が正確か。 少なくとも怪異からは創に対する敵意も悪意も感じなかった。 怪異の虚ろな視線は救われなかった少女、珠しか見ていない。 怪異はゆっくりと、だが確実に光の中で眠る珠へと近づいて行く。 ――――怪異。 それは未練、あるいは心残りによって生まれた存在。 この怪異もまたこのVHで同じ未練を抱えた死者の怨念が集合して生まれた存在である。 では、スヴィア・リーデンベルグ。彼女の未練は何か? 彼女に集まり取り憑いた怨念たちの抱えた執着は何か? その答えを、うわごとの様に繰り返し怪異は呟く。 「私の…………生徒を…………子供を…………救わねば」 怪異とは、全てが人を害する存在ではない。 姑獲鳥や産女、子育て幽霊と言った子を慈しみ育てる怪異は少なからず存在しており。 座敷童のように益をもたらす怪異も存在している。 どうしようもなく血塗られ呪われた山折村の歴史。 腐り落きった大人たち、救われぬ子供たち。食い物にされる弱者たち。 悪の根は蔓延り、数えきれぬほどの多くの悲劇を生んだ。 だが、それでも。 この山折にあったのはそれだけではない。 山折村、1000年の結実が醜悪な悲劇だけであったはずがない。 そこにはきっと、美しいものもあったはずだ。 この村で生まれたのは悲劇と絶望だけではない。 実りある自然の中で多くの人々を健やかに育んだ。 多くの命を生み、多くの命を未来へと繋いでいった。 そんな山折村の死者たちが、生き残った者たちへ残す心は恨みや辛みばかりではないはずだ。 ほんの僅かでも、その意思は確かにこの村に根付いていた。 郷田 剛一郎が村の子供に未来を託したように。 嵐山 岳が健やかなる子供の未来を願ったように。 厄に墜ちるでも、女王の招集に応じるでもなく それよりも自らの未練に従った僅かな魂がいた。 子の未来を願う未練の集合体。 未来を奪われた子供たちを救う怪異。 それこそが、スヴィア・リーデンベルグから生まれた怪異の正体だ。 救われなかった少女の前に怪異が跪く。 その奥底にあるのは強い使命感。 怪異の不気味な雰囲気とは対極な聖母のような慈悲と慈愛すら感じられた。 スヴィアは研究所との通信で定着したウイルスは生命活動にも結び付いている事を知った。 ウイルスを排除することは生命活動の終わりを意味する。 皮肉にも、その理論はスヴィアの死をもって証明された。 だが、その理論を聞いたスヴィアが頭の中で構築していた一つの仮説があった。 ウイルスが生命活動に結びついているのならば、抜けたその穴を何かで補完できれば、生命活動を維持できるのではないか? だが、あの時点ではその『何か』が見つけられなかった。 異能の進化に可能性を見出し模索していたが、結局それを見つけられずその命を終えた。 祈るべき星の見えない輝く大地で、少女を見下ろす怪異が祈りを捧げるように両手を合わせた。 風に周囲の光が浮き上がる。 それと同種の光が怪異の体より浮かび上がり、横たわる少女の体に温かい日の光の様に注がれてゆく。 それは、隠山祈が死の淵を彷徨う八柳哉太の身を癒したように。 一つの役割を果たす怪異としての命が、救われぬ子供に注がれてゆく。 彼女は、全能の力で全てを救う都合のいい神様ではない。 願えば何でも叶う願望機なんかとも違う。 山折村の積み重ねてきた歴史、彼女の学んできた知識と発想。 そして、ほんのちょっぴりの奇跡。 奇跡が降るにふさわしい夜。 光と闇、生死の入り混じる草原で。 創はその奇跡をただ黙って見守っていた。 それは、最後まで諦めなかった人間の頑張りに見合うだけの報酬として与えられた。 ただ一人の少女を救うだけの。 とても小さな、とても大きいなハッピーエンド。 「…………こほっ」 息絶えていた少女が咳き込む。 死亡していた珠が息を吹き返した。 それを見届けた怪異が穏やかな笑みを浮かべる。 そして、本懐を遂げた怪異の体が粒子となって消滅した。 風の流された先、そこには何も残っていなかった。 ■ 研究所本部。 応接室の時計は0時31分の時刻を指している。 日付が変わり、しばしの時間がたった。 「ひとまず、現時点で各地の異変は報告されていません」 奥津がそう報告する。 終里の子が滞在している各地に出来る限りの情報網を広げているが、今の所大きな異変は報告されていない。 「マァ。便りがないのはイイ便りというコトだネ」 染木はそう言って湯飲みから熱い茶をすすった。 日付の変更はおおよその目安だが、ここまで何も報告がない事を考えれば作戦は成功したと言えるだろう。 「元くんはお疲れさまだネェ」 老研究者が労いの声をかける。 そこには疲れ切った男が一人、身を投げ出すように応接室のソファーに座っていた。 脱ぎ捨てた白衣をソファーにかけて、絞った濡れタオルを目元においている。 「……まったく、年寄りに無茶をさせてくれる」 約束通り、終里は1時間強で細菌との対話を習得した。 そしてウイルスネットワークの繋がりを辿って、各地の女王たちを休眠状態にすることに成功した。 かなりの強行軍だったのか、さすがの終里もすっかり疲れ果てた様子である。 Aウイルスが活動を停止すればその影響下にあるCウイルスは沈静化する。 女王の巻いた山折村の種は花を咲かすことなく眠りにつくことになった、本体である女王と一緒に。 「一つ、お尋ねしたい」 「なんだ? 手短に頼む」 「では簡単に。女王の討伐に、あなたの干渉はあったのですか?」 魔王殺しの弾丸を喰らい『魔王』の力が排除された時点で、ウイルスネットワークにおける終里の権限は女王を上回ったはずだ。 干渉手段を習得した時点で女王にも干渉可能になったはずである。 その質問が愉快だったのか。 終里は濡れタオルを取って机に置くと、最低限の姿勢を正す。 「さて、どちらでもよいではないか。いずれにせよ女王の討伐はされていただろう」 いつもの調子を取り戻したように不遜な態度で曖昧な言葉を終里は告げる。 干渉があろうがなかろうが、村の生き残りと特殊部隊の連携によって女王は討伐されていただろう。 「かくして。一件落着、世は事もなし、と言うことだ」 「まだ、事後処理が残っていますが」 冷静に長谷川が指摘する。 女王の行った同時多発テロは不発に終わった。 だが、当面の危機は去っただけで、まだ休眠状態にした女王たちの処理や、山折村の事後処理は必要である。 「なぁに。後に起こることなど、世界の趨勢に何の影響も与えぬ蛇足だろうよ」 ■ 奇跡の降る夜。 寄る辺を失い光の花が徐々に色あせてゆく。 村の終焉を告げるような終りの光景の中で、天原創は死者の蘇生と言う奇跡を目の当たりにした。 屈みこんだ創が珠の手首に手をやり脈拍を確かめる。 弱弱しいが脈はある、胸も呼吸で僅かに上下していた。 意識こそ取り戻していないが確かに息を吹き返しているようだ。 女王感染者の死なんてクソったれな運命は覆された。 あきらめず頑張り続けた人の意志によって。 その全ての成果として珠の命は救われた。 安堵の息を吐く創の元に、何者かが近づいてくる気配があった。 創はそれが分かっていたように、冷静にそちらに視線を向ける。 光を失い始めた草原を踏みしめ、迷彩色の男が姿を現した。 創は当たりを付けて、スヴィアから聞いていたその名を呼ぶ。 「乃木平だな?」 光の巨人を撃破し、女王の刃を撃ち落とした特殊部隊。 大一番である対女王戦においても、彼は徹底的に黒子に徹してきた。 一騎当千である特殊部隊の中で明らかに異質な動きでありながら、唯一の生存者として見事に任務を達成した。 「作戦行動中なので、forget-me-notと呼んで欲しいですね」 本気で行っているわけではないのだろう。 冗談めかした様子で肩を竦める。 ヴィアを廻るファーストフード店の攻防で、戦術上の衝突はあったが直接顔を合わせるのは初めての事である。 互いに何気ない会話を交わすような調子で、臨戦態勢のままいざとなれば戦える間合いで構えていた。 「女王は死んだぞ。僕が殺した。彼女はもうその影響下にない」 「そのようで。こちらとしても研究所側のジャッジ待ちです」 だが、目に見えない細菌の話だ。 完全に解決したかと言う確信までは持てない。 完了の判断を下すのは上役の役目だ。 「その後は、そちらの動きはどういう運びになっている?」 創の問いに、天は顔をそらして小声で何かを話し始めた。 どうやら通信先に確認しているようだ。 「女王の死亡に伴い、これから感染者たちからウイルスの影響が消失するでしょう。 しかし、ウイルスが定着したB感染者はその限りではありません。 しばし様子を見て正常感染者の中にB感染者がいないかの確認をします。 問題なく生存者全員の消失が確認できれば我々は撤退します。後はご自由に」 その判断を現在、村を監視している研究所が行っているのだろう。 感染者本人からすれば異能の消失と言う形でウイルスの影響の消滅は自覚できるのだが、まさか自己申告で通すわけにもいくまい。 「ご自由に、か。随分と杜撰な管理なんだな」 「我々は存在しない部隊ですので。事後処理は表の災害処理班にお任せしますよ」 事情を知らない通常の自衛隊が通常の災害として処理される。 生存者を保護するのもそちらの役割なのだろう。 「口封じはしないのか?」 「無用でしょう。もうそれだけの生き残りもいない。何より誰が信じます?」 ここで起きた出来事は荒唐無稽すぎる。 余程の説得力がない限りただの妄言扱いされて終わるだろう。 それにしたって口止めの一つもしないのは妙だが。 「なら。勝手に引き上げさせてもらう」 「構いませんよ。貴方に関しては」 創の背景に関しても既に裏が取れている。 諜報局の諜報員(エージェント)。 放置した所で余計なことはしないだろう。 「ただし、そちらの少女の身柄を預からさせていただきます」 天が指すのは元女王、蘇生を果たした日野珠。 その言葉に、創の視線が睨むように細まる。 「彼女をどうするつもりだ?」 「研究所からの要請ですので、詳細はお答えしかねます」 元女王という検体を研究所が求めている。 それに関してはそうなるのだろう。 だが、連れていかれた検体がどうなるかなど想像に難くない。 「嫌だと言ったら?」 「あなたの許可を得る案件でもないでしょう?」 空気が張り詰める。 創がジリと距離を取るように歩を広げた。 「止めておいたほうがいい。女王の死亡に伴いこの村のウイルスの影響は薄まりました。既にこの村には部隊をいくらでも送り込める状況にある」 銃に手を懸けようとした創を静止する。 ある意味でこの村はウイルスによって守護られていた。 その守護がなくなった以上、いくらでも戦力を投入できる。 「賢明な判断を」 女王は消滅し感染拡大(パンデミック)の脅威は去った。 これ以上彼らが殺し合う理由はない。 「…………いいだろう。そちらの要求に従う」 そう言って、そうは手にしていた銃を地面に落としてポシェットを外して荷物を投げ渡した。 そして、降伏の意を示すように両手を上げる。 アンプルの効果はまだ残っている。 ここで殺し合いになっても1対1なら創が勝つだろう。 だが、目の前の天一人を殺すことはできるだろうが、それだけだ。 命を懸けて戦えば珠が助かるのならともかく、珠の身柄は奪われ創も死ぬのでは何の意味もない。正しく無駄な抵抗だ。 エージェントとして感情に任せたそんな判断はできない。 合理的に、珠の身柄の引き渡しに同意する。 「ただし、条件付きだ」 「伺いましょう」 「僕も同行する。構わないだろう? 研究所だって女王以外の元感染者も欲しいはずだ。彼女には指一本触れさせない」 どこかのエージェントのように自らを検体して差し出す。 他の生存者も気にかかるが、彼らは彼らで離脱するだろう。 今は元女王として狙われる珠の身を守護るのが最優先だ。 創であれば組織と言う後ろ盾はあるし、捕虜の扱いについて交渉もできる。 珠をただ差し出すよりはましだ。 「……まあ、いいでしょう。 研究所に辿りついてからの処遇に関しては私の立場では約束しかねますが、道中の身の安全は保証しましょう」 特殊部隊とエージェントは条件に合意する。 下手な約束をしないのは彼なりの誠意だろう。 何かを受信したのか、天が耳元を抑え短い受け答えをする。 「上の確認がとれました。この村から[HEウイルス]の影響は晴れたようです」 特殊部隊の口からバイオハザードの終息が宣言される。 戦いはこれで本当に終わったのだ。 「西の山麓に迎えをよこしていますので、あなた方はそちらに向かってください」 天の案内を受け、創が意識のない珠の体を背負う。 そろそろアンプルの反動が来る頃だが、気合で意識を保たせる。 「あんたは同行しないのか?」 「まだ事後処理がありますので。それが終わり次第私も同行しますよ」 そういって創を見送る。 そして、珠を背負った創が立ち去るのを見届けた後、その場に残った天が創の投げ渡した荷物を回収する。 その中身を確認して、司令本部への通信を行う。 「本部。例の作戦関してですが、実行前に一つ回収いただきたい物が出たのですがよろしいでしょうか?」 例の作戦とは天が提案した流出作戦についてだ。 荷物の中に、作戦を補強する道具を見つけた。 申請を行ってから程なくして、回収用ドローンが天の下に舞い降りる。 夜の空に舞い上がっていくドローンを見つめながら、天が息を吐く。 地上の光は消え、天には光が満ちていた。 これで、天の成すべきことは終わった。 多くの犠牲払った大変な任務だった。 実行部隊の中で一番の未熟者である天だけが生き残ったのは何の因果か。 その意味を考えるには、今の天の頭は少し疲れすぎている。 防護服を脱ぎ捨て、自宅のベッドで休みたい気分だ。 ともあれ、任務完了である。 「任務完了しました。forget-me-not。帰還いたします」 【日野 珠 生還】 【天原 創 生還】 【乃木平 天 任務完了】 ■ 「何だ…………外で何が起こっているんだ?」 研究所とは違う村に秘匿されたもう一つの地下施設。 資材管理棟と言う名の監禁室に未名崎錬は閉じ込められていた。 ずっと房の中にいた錬ですら感じられるほどの異変が外の世界で起きている。 まるで巨人でも暴れたのではないかと言う、余震が続いたかと思えば、ピタリと収まり恐ろしいまでの静寂が訪れる。 既に外の世界は終わっていているのではないか? そんな疑念が頭をよぎり、まるでこの独房がノアの箱舟にようにすら感じられた。 外の様子はどうなっているのか? 自分たちの計画は上手くいっているのか? 指示通りスヴィアは動いてくれているだろうか? ここを訪れた哉太たちはどうなったのだろう? そんな疑問と不安が膨れ上がり、錬の心を埋め尽くす。 彼の双肩には世界の存亡がかかっているのだ。 こんなところで閉じ込められているのは耐え難い。 無駄とわかっていながら錬は扉に近づき開閉窓に手にかけた、ところで。 「鍵が…………開いてる?」 地震の拍子に外れたのか、扉が開いている事に気づいた。 余りにも都合のいい偶然である。 恐る恐ると言った様子で重い房の扉を開く。 久方ぶりの外の空気が流れ込む。 と言ってもまだ、地下の資材管理棟の中ではあるのだが。 長らく閉じ込められていた狭い独房から出るのはやはり解放感がある。 だが、そんな呑気な感想を抱いている場合ではない。 外がどうなっているのか分からない 研究所の連中に見つかる前にこの場を離脱する必要がある。 外に出るべく廊下を進み、地上に続くエレベータに向かう、 だが、その途中、足元に転がる板の様な何かに気づいた。 まっさらな白い廊下にこれ見よがしに転がるソレを拾い上げる。 それはスマートフォンだった。 なぜこんなところにスマートフォンが落ちているのか。 数時間前にここを訪ねてきた哉太かアニカが落としたモノだろうか? そう思いながらスマホを拾い上げ何気なくスイッチに触ってみる。 すると、ロックはかかっていないのか画面がオンにされた。 確認程度に目を通すだけのつもりだったが、一つのテキストデータを開いた瞬間その目の色が変わった。 足を止めて夢中の様子で読み漁り始める。 そのテキストの中には、この村の暗部についての告発文が書かれていた。 それは小説家、袴田伴次のスマートフォンだった。 つまりそこに書かれていたのは告発文ではなく、単なる小説のネタ。 この村の伝承について様々なある事ない事が記述されていた。 何故そんなものがこんなところに? そんな疑問よりも早く錬は理解した。 己が『天』に与えられた『運命』を。 使命感に駆られながら、固い廊下を駆けだした。 外の世界に続くエレベータに向かって。 彼は感染力を持たない[HE-004]の感染者である。 [HE-028]に感染せず、村外に出たところでパンデミックの原因にならない。 女王の死を知らずとも、村の外に出ることに躊躇いはない。 村の外へと事の顛末を伝える必要がある。 それこそが世界を救わんとした錬に与えられた天命である。 これが、天が司令部に提案した流出計画の保険である。 錬の閉じ込められた房の鍵が開いたのは、もちろん偶然ではない。 隠密行動を得意とする隊員――婆が工作員として資材管理棟に侵入させていた。 女王死亡後であれば山中の封鎖要因を借り出してもよいと言う判断である。 そしてしかるべきタイミングで潜入した工作員が鍵を開ける。 地面に落ちていたスマートフォンも工作員が用意したものだ。 天が預かった創の荷物にあったものをドローンによって運んで工作員によって配置された。 未名崎錬という男は、テロリストを手引きしてこの村を地獄に突き落とした実行犯の一人だ。 ただの身勝手な犯罪者であれば自分の保身に走るだろう。 だが、世界救済のために動いた思想犯であれば、そのような行動に走らない。 彼には世界の為に自らの命を投げ出す覚悟がある。 未名崎錬は研究員の一人であり、実行犯の一人として多くの情報を持っている。 そして自ら世界を救おうとする行動力を持ち、それなりに名の売れた研究者としての影響力もある。 『Z計画』の詳細の告発者としてこれ以上ない人材だ。 ヒロイズムに酔う人間は、都合よく転がっていた情報を『天命』だと思い込む。 都合のいい情報を都合よく解釈して、この情報を元に面白おかしく尾ひれを付けて喧伝してくれるだろう。 彼の脱出は見逃され、平穏無事に成し遂げられるだろう。 勘違いの使命感を抱えながら。 告発者は地上に続くエレベータに乗った。 ■ 「……終わったな」 誰となくつぶやかれた言葉は風に流れた。 診療所の中庭でもみ合うように絡み合っていた3人の男女は、遠く離れた草原で行われた決着を感じ取っていた。 抵抗と拘束を続けた結果、三角締めからポジションを変えバックチョークの体勢に移行しており。 アニカの放つ魔力紐もその動きを支援するように哉太の両足を引っ張っていた。 それでもなお無限の耐久力と再生力で暴れまわる哉太を押さえるのに精いっぱいだったが、その動きも今となっては完全に静止している。 哉太の抵抗は既に止み、それを抑える2人の少女も何かに気を取られるように力を抜いていた。 感染者の頭の中で響く声が完全に消え去った。 心の中に終りを告げるような虚しさがある。 その結末を見届けることはできなかったが、感染者たちは実感として理解していた。 ――――女王は、死んだのだと。 女王の死に伴い、己が脳内を侵すウイルスが活動を停止し始めた。 ただの寄生関係でしかなかったとしても、自分の一部だった存在の消失である。 寂しさを感じるのは、寄る辺となる女王を失い、自らも消えゆく[HEウイルス]の心なのか。 「ああ…………もう、大丈夫だよ二人とも」 仰向けに寝転がりながら、自らを押さえていた2人に告げる。 哉太の中からも、自らを突き動かすような衝動が消えていた。 それに伴い、彼女たちの異能も徐々に消え去り始めていた。 高魔力体質の消去によって魔聖剣の魔力放出も途切れはじめた。 哉太の拘束も解かれてゆき、抑え込みを行っていた茶子も技を解いて身を放した。 「あぁ……くそ、情けねぇな」 解放された哉太は悔し気にそうつぶやく。 衝動はなくなってもその記憶は残っている。 情けなさと気恥ずかしさが襲ってきて立ち上がれないでいた。 ともあれ、これで山折村で発生したVHは終わったのだ。 多くの犠牲を出し、取り返しのつかない被害をもたらしたが。 これ以上何かが失われることはないはずだ。 だが、アニカの託された為すべきことはここからだ。 山折村の正しき終焉のため、呪われた歴史に正しき終わりを。 その為に、白兎が願望機に託した願いを、正しき名で願いなおす。 白兎の望んだ「神楽うさぎ」こと、デセオの完全なる蘇生。 白と黒に分かれた肉体と魂を一つにして正真正銘の『運命』の女神の子による、因果の解体だ。 「Ms.チャコ。御守りを」 「ああ」 ようやく訪れる終りの時。 1000年の呪いより解き放たれる時が来た。 未来へのプラチナチケットを届けるためにアニカへ茶子が近づく。 「…………え」 少女の口から間の抜けた声が漏れた。 気付けば、いつの間に拾い上げたのか、茶子の手には藤次郎の刀が握られている。 その刃はアニカの腹部を拭き破り、背から鋭く突き出されていた。 時が止まったかのような静寂。 少女の血を吸った剣先から、赤い雫が滴り落ちる。 手首をひねった茶子が乱暴にアニカの体を蹴りだし、刃が勢いよく引き抜かれる。 小さな少女の体から信じられない程大量の血が噴き出した。 倒れた体は2、3度ビクビクと痙攣しながら血を噴出した後、完全に動かなくなった。 「……………………茶子、姉?」 目の前で繰り広げられた信じられない光景に哉太が言葉を呑む。 その声を無視して、茶子はアニカの手元から零れ落ちた血濡れの盃を拾い上げる。 最大の邪魔者である女王は消え去った。 手には願いを叶える願い星がある。 ならば、すべきことなど一つだ。 「―――――――願望機は、あたしが使う」 ゆらりと、終りを拒む亡霊のように、山折村の生み出した被害者(かいぶつ)は己が祈りを口にする。 「あたしは、この山折村を――――永遠に残す」 【天宝寺 アニカ 死亡】 132.Z ―地上の流星群― 投下順で読む 134.Z ―永遠の山折― 時系列順で読む Z ―地上の流星群― 日野 珠 GAME CLEAR 天原 創 GAME CLEAR 乃木平 天 MISSION COMPLETE 天宝寺 アニカ GAME OVER 八柳 哉太 Z ―永遠の山折― 虎尾 茶子 真田・H・宗太郎 MISSION COMPLETE 奥津 一真 終里 元 梁木 百乃介 長谷川 真琴
https://w.atwiki.jp/azumatome/pages/50.html
デザインの類似 ※「中二病でも恋がしたい! 」の小鳥遊六花とキャラデザや中二病の性格設定、魔眼や目薬が苦手という設定も酷似 ※作画の小原トメ太氏は過去に「中二病でも恋がしたい! 」の小鳥遊六花を主役とする同人誌を頒布している。 キャラクター詳細 + 長文にご注意下さい。 目次 デザインの類似 目次 プロフィール 史実での活躍 スペックデータまとめ 艦船の概要 艦船の歴史 設計と説明 建設と経歴 トレパク検証 デザイン検証 動画まとめ プロフィール キャラクター名 駆逐艦Z36(KMS Z36) 所属 鉄血(ドイツ) 絵師/イラストレーター 小原トメ太(QP flapper )(pixiv) 声優/ボイス 原紗友里 アニメ/フィギュア 人気や発売は未確認
https://w.atwiki.jp/mousouyomi/pages/1847.html
【妄想属性】hoge 【作品名】16かいヒット 【名前】Zマン 【属性】H E R O 【大きさ】0.01mm 【攻撃力】Zソード:長さ0.02mmの剣。下記のクレオパトラを一撃で殺せる。 【防御力】クレオパトラのビームが直撃しても無傷。 【素早さ】移動および攻撃は秒速149.6km。0.01mm先からの秒速149.6kmの攻撃を回避できる。 【特殊能力】ジェノサイド:この能力を無効化・消去等した者を消滅させる。 【長所】主人公。 【短所】基本一撃必殺なのでテンプレがクレオパトラ依存。 参考テンプレ 【名前】クレオパトラ 【属性】ラスボス 【大きさ】0.01mm 【攻撃力】目から秒速149.6kmのビームを出して八丈島くらいの大きさの島を消滅させた。 【防御力】自分のビームが直撃しても無傷。 615 名前:アリゲラα ◆jhlUsrQYEQ [sage] 投稿日:2009/09/29(火) 16 04 12 ID eKfTKuJf Zマン考察 8㎞消滅攻防+マッハ440+1m先からの光速50倍反応+能力無効0秒勝利 確実に先手を取れるだろうから亜光速の壁から ○○ゼーーット、金 斬殺勝ち ○大怪獣ゴジラ 殺し続け勝ち ○○ゴルゴン姉妹 目なんか見えんだろうから勝てる △111 でかすぎて削りきれん ○レボルス8号 斬殺勝ち ○レイ 斬殺勝ち △マジャスティス 硬すぎる ×ニコニコ動画物語 吸い込み負け ×ヴェルオリ 範囲技負け ○愛生愛華 斬殺勝ち ○緋弾のアリア 簡易判定で勝ち ○クインベル 斬殺勝ち △カナオキ 速すぎて当らん ×完全体黒崎一護 無理 △のの 速すぎて当らん △魔人フェルプス 速度同じなので当らん 光速戦闘より上は無理 のの>カナオキ=Zマン>クインベル
https://w.atwiki.jp/smoksanc/pages/164.html
10/12/7 「チームK」(「ちーむけー」) イタリア代表の座を奪うため結成された、どっかの国のどっかのチームのようなチーム 監督はチーム名からわかるようにミスターK、キャプテンはデモーニオ ミスターKのチームにしては珍しくドーピング(建前は強化プログラム)しているメンバーが一人しかいない。 元々、イタリアの下町で自分たちの楽しいサッカーを楽しむ連中だったが、イタリア代表の代表選考に呼ばれなかったことで力を求めるようになった やっぱり彼らと被っている 余談ではあるが、在籍していてドーピングしてないメンバー(つまりデモーニオ以外)の名前は色と宝石・鉱石から付けられている。 ファーストネームが色、ファミリーネームが宝石・鉱石を元ネタにしているようだ。 選手一覧 デモーニオ・ストラーダ ポジション:MF 背番号 10 声優:ディラン ミスターKに力を与えられオリジナルを凌ぐ力を得たそっくりさん と思ったら、元々の髪型がドレットヘアーの人はゴーグルとマントを付ければそれらしく見えることは言うまでもない 必殺技は真イリュージョンボールと皇帝ペンギンエェーックスゥー! インディゴ・ラズリ ポジション:GK 背番号 1 必殺技を一度も発動しなかったゴールキーパー。 というのも世界への挑戦!!で彼が覚えるキーパー技は フルパワーシールド、ワームホール、正義の鉄拳というオール既出技のためだからだろう。 これも影山のせい。 ロゼオ・ディアマンテ ポジション:DF 背番号 2 キラ目 アズベル・トルケーゼ ポジション:DF 背番号 3 ネッロ・アーガタ ポジション:DF 背番号 4 アズロ・ザッフィーレ ポジション:DF 背番号 5 ベルディオ・ズメラルド ポジション:MF 背番号 6 ロッソ・グラナート ポジション:MF 背番号 7 ジャッロ・トパーツィオ ポジション:MF 背番号 8 ビオレテ・アメティスタ ポジション:FW 背番号 9 ビアンコ・ペルラ ポジション:FW 背番号 11 グリッジョ・ジェッソ ポジション:GK 背番号 12 パルド・ベリッロ ポジション:DF 背番号 13 マッローネ・ティタニート ポジション:MF 背番号 14 アマラント・ルビーノ ポジション:MF 背番号 15 ラッティモ・オパーレ ポジション:FW 背番号 16 【関連】 オルフェウス ネオジャパン 木材落とし 日程ずらし ミスターK 影山のせい
https://w.atwiki.jp/bzspirit/pages/1500.html
B z SHOWCASE 2015 -下関有頂天NIGHT-は、2015年3月9日に下関市民会館大ホールにて行われたB zのSHOWCASE。 メンバー 松本孝弘:ギター 稲葉浩志:ボーカル サポートメンバー 増田隆宣:キーボード シェーン・ガラース:ドラム バリー・スパークス:ベース 大賀好修:ギター セットリスト 1. 有頂天 2. NO EXCUSE 3. アマリニモ 4. Exit To The Sun 5. Black Coffee 6. TIME 7. love me, I love you 8. HEAT 9. Classmate 10. Man Of The Match 11. 熱き鼓動の果て 12. Blue Sunshine 13. HOME 14. ultra soul 15. スイマーよ!! 16. BURN -フメツノフェイス- 17. Las Vegas 18. EPIC DAY 【ENCORE】 19. イチブトゼンブ 20. ギリギリchop 【ENDING SE】 ひとりじゃないから -Theme Of LIVE-GYM- 〜 未発表曲 その他 アルバム『EPIC DAY』収録曲で唯一「君を気にしない日など」が未演奏となったが、2013年の「B z Special LIVE」にて演奏済みのため、これにより『EPIC DAY』収録曲は全曲ライブで演奏されたことになる。
https://w.atwiki.jp/bz666/pages/131.html
B z Break through+Bad communication INTERVIEW EQUIPMENTS HISTORY LADY-GO-ROUND B・U・M BREAK THROUGH BOYS IN TOWN GUITARは泣いている LOVE CHAIN となりでねむらせて HEY BROTHER 今では…今なら…今も… SAVE ME!? STARDUST TRAIN BAD COMMUNICATION